
こんにちはコウカワシンです。
今回は、橘玲(たちばな・あきら)さんの著書『バカと無知』から学ばせていただきます。
『バカと無知』は、どんな本?
『バカと無知』は、ズバリ!「バカのままでいずに、自分の無知を認め利口になるための方向性を知ろう」という本です。
本書は、このような本
本書の著者は、作家で社会評論家の橘玲(たちばな・あきら)さん。
本書は、著者が2021年8月から22年6月にかけて『週刊新潮』に連載した「人間、この不都合な生きもの」に若干の加筆・修正のうえ、付論2編を加えたものです。
まわりを見渡すと、「ああ、この人バカだなあ」とか「なんで、こんなふつうのことがわからないのか?」とか「いつもマウントとってきていやな奴だなあ~」と思う人はいませんか?
デール・カーネギーの『人を動かす』を読んだ人は、わかると思いますが、「人は自分の意見や行動を正しい」と思っているもので、相反する意見には「敵」と見なし攻撃したりします。
これは人間の本性というべき「理解が欠けている状態」であり、基本的に「無知」なのです。
でも、「無知」を解消できる人もいます。
それは、事実・現状をきちんと整理・把握・理解ができるひとで、「学べる」人なのです。
それができない人もいます。
そういう人は言い方は悪いですが「バカ」であるといえます。
実際のところ、「バカ」との共存はとてもしんどいです。
ですので、「バカ」の現実と対処法を知る必要があります。
本書はその参考書ともいえる一冊です。
本書がおすすめな人
『バカと無知』がおすすめな人
- いつも他人の意見に流されてしまう人
- 事実を確かめずに、根拠のない意見を信じてしまう人
- 社会という群れからあぶれていると感じる人




『バカと無知』の要点は?
社会には、「利口」な人と「バカ」な人がいます。
利口な人ばかりだと、争いごとも起きず、何ごともスムーズにいくものですが、なぜかそのようなことにはなりません。
なぜなら、バカな人が大勢いて、バカなことを主張して、利口な人の意見を弾き飛ばしてしまうからです。
これは、原始時代から続いてきた人間の本性だと著者は言います。
原始時代は、一人きりでは生きていけなかったので、150人ほどの共同体をつくり、そのなかからはみ出さないように、バカは自分の地位を守ろうとして自分の能力を過大評価し、利口な人は、自分の優れた能力を隠して生きてきました。
どちらも生き残っていくために大切なスキルだったということですが、それを現代でも引きづっているということです。



それでは、わたしの独断と偏見で、本書からエッセンスが伝わるものを取り上げてみたいと思います。
この記事から、「この本い~な~」と思っていただけたなら、ぜひ本書を手に取って読んでみることをおすすめします。
バカは自分がバカであることに気づいていない
心理学者のデビッド・ダニングとジャスティン・クルーガーがコーネル大学の学生を使って、「能力の低い者は、自分の能力が低いことを正しく認識できているか」の実験をしました。
実験は、ユーモアのセンス、論理的推論・文法問題の得点と、学生たちの自己評価を比較するもので、論理的推論では、平均を50、最低を0、最高を100として得点が正規分布するとした場合、学生たちの自己評価の平均が66点でした。
実際の平均は50点ですので、学生たちは自分の実力を3割以上も過大評価していることになります。
まあ、これは「人並み以上効果」として、誰でも恋愛や仕事、わが子の才能、自分の車の運転技術において、「平均と比べてどうか?」と質問されたら「自分は人並み以上だ」と大多数の人が答えるものなのです。
この実験で興味深いのが、1/4の学生は、実際の平均スコアが12点だったにもかかわらず、「自分たちは68点」と思っている一方、上位1/4の学生は、実際の平均スコアが89点なのに自己評価が72点と低く答えたことでした。
つまり、能力の低い人は自分のことを「平均以上だ」と実力以上に評価し、能力の高い人は自分のことを「自分なんてダメだ」とか「自分なんてまだまだだ」という実際とは違う低い評価をしてしまうという結果になったのです。
この実験結果から、ダニングとクルーガーはシンプルで強力な結論を出しました。言葉は悪いけどこうです。
「バカの問題は、自分がバカであることに気づいていないことだ」
自分の実力について客観的な事実を見せられても、バカはその事実を正しく理解できません。自分の評価を修正しないばかりか、ますます自分の能力に自信を持つようになるのです。
でも、「バカってどうしようもないなあ」とは思わないほうがいいです。
というのも「バカは原理的に自分がバカだと知ることはできない」からです。
著者は、自分も含めて誰もがそうだと言います。
このダニングとクルーガーの実験でわかったことを「ダニング=クルーガー効果」というそうです。
興味がある方は、こちらの記事も見てください。


利口は、バカに引きずられる
「三人寄れば文殊の知恵」という言葉がありますが、これは能力が似通った人たちが知恵や知識を出し合い協力することで得られることです。
ですが、利口な人と能力の劣る人だと、こうはならないといいます。
なぜなら、利口な人は能力の劣る人を同等扱いし、過大評価をします。その過大評価に引きずられ「平均効果」を起こしてしまうのです。
民主主義国の政治の混迷が良い例です。
日本でいえば、「消費税を上げるな」「富裕層の負担をもっと上げろ」「移民は嫌だ」「防衛費は払いたくない」という人たちがいます。
そのうえで、「医療費は保険でカバーしろ」「年金はちゃんとくれ」「国防は国の責任だ」とも主張し、それに付け込んで同調する政治家に投票するんです。
すると、国会ではいつまでも「決められない政治」が常態化します。
この流れは、世界中で起きていて、アメリカをはじめとする欧米先進国の民主的な意思決定システムよりも、中国のような「独裁」のほうが高いパフォーマンスを達成しているという見方まであると著者は言います。
トランプ大統領誕生、イギリスのブレグジット、移民問題・・・、欧米諸国がポピュリズムの嵐に翻弄されている間に、中国は一貫して高い経済成長を維持しているのはまぎれもない事実です。
バカと利口が熟議する悲劇は、まだまだあります。
ツイッターなどのSNSでは、すべての発言が平等に表示されます。
見ず知らずの相手の発言を評価するとき、わたしたちは実績よりも「自信」を参考にしがちです。どれほどバカげた主張でも、相手が自信たっぷりだと思わず信じてしまうことがあるということです。
これはなぜなのかというと、ヒトの本性が性善説だからではなく、脳の認知能力に限界があるからだと著者は言います。
人間は、日々膨大な選択をしなければならず、そんななかで、ひとつのことをじっくり考えて、何が正しいかを決めるのはものすごく労力が要ります。
そのため考えることを最小限にし、希少な認知資源を無駄にしないように、「相手のことをとりあえず信用する」というラクな選択をするのです。
でもSNSアカウントなどは匿名性のものが多く、学歴や資格、所属する組織といった信用を補完するものがほとんどありません。
それなのになぜか、信用性の薄い発言を信用してしまうのは、脳の認知能力の限界から「相手のことをとりあえず信用する」というラクな選択に落ち着くからなのでしょうね。
しかし、SNSとかで問題なのは、「平均効果」によって、自分の判断を過大評価してしまうことです。
この状況で自分と異なる主張を目にすると、「おまえはバカだ」と個人攻撃をする人が現れたりします。
その騒ぎが大きくなると炎上したりもするのですが、人は攻撃されたら反撃するし、自尊心を守るためにはどんなことでもします。
SNSで執拗に誹謗中傷を繰り返すのは、傷ついた自尊心を回復させようとする抵抗でもあるのです。
このやっかいな問題を解決するには、投稿者一人ひとりを(マイナンバーなどで)本人と紐づけして、ルール違反を即座に処罰できるようにし、投稿者の信用度を評価して公開し、一定以下だとSNSから排除する仕組みも必要です。
まあ、原理的に考えれば、バカを排除する以外に「バカに引きずられる効果」から逃げる手はないといえます。
あとは自分自身が、しっかりと検証する能力を持ち、バカと距離を置くことでしょうか・・・。
バカと無知は違う
まず、人間には「知っていること」と「知らないこと」があります。
「知」と「無知」ということですが、これには3つのパターンがあります。
- 知っていることを知っている
- 知らないことを知っている
- 知らないことを知らない
「知っていることを知っている」というのは、足し算の規則を知っていて、「5+3=8」と計算できることを知っているということです。
「知らないことを知っている」というのは、たとえば、パソコンがどのようなプログラムで動いているかは知らないけれど、自分が無知なことは知っていて、パソコンが故障したら自分で修理しようとはせず、修理してくれる業者に連絡するでしょう。
「知らないことを知らない」というのは、先ほどの「ダニング=クルーガー効果」でいう、「二重の無知」ということです。
つまり、「バカは、自分がバカであることを知らない」ということです。
まず「バカ」は、「愚かなこと」であったり「社会の常識が欠けている」「知能が劣っている」「役に立たない」「機能を果たさない」「記憶力・理解力が他人と比べて劣っている」というふうに解釈されます。
それに対して「無知」は、「何も知らないこと」「知識がないこと」を指します。
簡単に言えば、バカは元々の能力がないということ、無知は問題解決に必要な知識を欠いているだけで、これからの学びでいくらでも知識を得て、「知らないことを知る」ことができるということです。
わたしたちが無知なのは、現代社会がものすごく複雑だからが原因です。
しかし、日常のあらゆる疑問に対して厳密な知識を得ようとすれば、時間がいくつあっても足りません。
そのため時間的にもきびしい制約の中で、なんとか必要最低限の知識を手に入れようと四苦八苦しているということですよね。
日本人の3人に1人は日本語が読めない
残酷な事実を言います。
「日本人の3人に1人は日本語が読めない」そうです。
なぜこの事実がわかったかというと、OECD加盟の先進国を中心に、24ヵ国・地域の16~65歳約15万7000人を対象に、2011~12年に実施されたPIAAC(国際成人力調査)です。
PIAACの問題はレベル1から5まであり、レベル3は「小学校5年生程度」の難易度。どのような分野の問題が出るかというと「読解力」「数的思考力」「ITスキル」といった仕事に必要なことが出されたのです。
それで、どのような結果になったかというと次のとおりです。
- 日本人のおよそ1/3は「日本語」が読めない
- 日本人の1/3以上が小学校3~4年生以下の数的思考力しかない
- パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割程度しかいない
ちょっと、おどろきですよね。
でもこのような結果だとしても日本人の成績は先進国で1位なのだそうです。
OECDの平均をもとに、先進国の労働者の仕事のスキルを要約すると次のようになります。
- 先進国の約半分は簡単な文章が読めない
- 先進国の成人の半分以上が小学校3~4年生以下の数的思考力しかない
- 先進国の成人のうち、パソコンを使った基本的な仕事ができるのは20人に1人しかいない
アメリカでは、1985年、1992年、2003年に大規模な「全米成人識字調査」を行い、「文章リテラシー」「図表リテラシー」「計算リテラシー」を調べました。
その結果がおどろきです。
- アメリカの成人の43%は仕事に必要な文章読解力がない
- 同じく34%は仕事に必要な図表課題をクリアできない
- 同じく55%は仕事に必要な計算能力がない
こんなので、ちゃんと仕事がこなせているのだろうかと思いますよね。
なお、この調査では学歴別の結果も調べていて、高度な事務作業に必要な計算スキルをもつ成人は大卒では31%、高卒では5%、高校中退では1%しかいないとのことです。
この「学歴(知能)格差」によって白人労働者層が仕事を失い、トランプ前大統領の岩盤支持層になったといわれています。
日本では、人口のおよそ6人に1人が偏差値40以下で、これらの人は高度化する知識社会のなかで「見えない存在」にされています。
問題は、知識社会がそれらの人々の知識を高く見積もっているところにあります。
たとえば、税務申告書とか生活保護の申請といったものを、説明を読んで役所の書類を正しく記入するためには、偏差値60程度の能力が必要です。
ということは、自力で申請できるのはせいぜい5人に1人で、残りは(お金を払って)誰かに頼るか、あきらめるしかありません。
この現実に気づかないのが、社会を動かしている高学歴のエリートです。エリートは、まわりにエリートしかいないので、「ええ!こんなのができないの??」って感じになるわけです。
バカと関わらないようにするには
根本的に「バカ」と「無知」は違うものです。
「バカ」は、いわゆる「学べない人」です。しかも自分自身を過大評価しています。
自分の意見が正しいと大きな声で主張し、自分と違う意見を持つ人を攻撃し、願わばマウントをとり、自分を常に優位に立つように画策する人たちです。
結果、小数の利口な人は、「自分が間違っているのかも?」と自身のことを過小評価して意見を引っ込め、集団での決定はバカに引きずられてしまいます。
このような悲劇を避ける最も良い方法は、一定以上の能力を持つ者だけで議論することです。
これを実践しているのがシリコンバレーのIT企業で、世界中からとてつもなく能力の高い若者を集め、明快なミッションを与えて協働させることで、きわめて効率的な組織を生み出しました。
その結果、GAFA4社の株式時価総額が日本の株式市場の時価総額を超えるまでになったのです。
まあ、シリコンバレーのような場所は、ほかにはなく、一般化できるわけでもありません。
では、どうやってバカと関わらずにやっていくかですが、はっきりいえば「バカと距離を置く」ということですね。
人は、自尊心を守るためなら何でもやります。
いくらでも自分を正当化する理屈を思いつき、「見たいものだけを見て、聞きたいことだけを聞く」ということを太古から人間の本性として継承されてきているのです。
ですので、いったん「○○はこうあるべきだ」という強い信念を持つと、それに合わせて現実が歪曲していくことは容易に想像できます。
これが顕著に出るのが、SNSの自分たちを「善」として、なんらかの「悪」を告発する善悪二元論です。
自分たちが「絶対的な善」ならば、自分を批判する者は、「絶対的な悪」以外にないというような流れは、SNSで徒党を組み、敵対する集団に罵詈雑言を浴びせる無間地獄に陥っていきます。
このようなものに、ふつうの人なら関わろうとしません。
ですので、一定の距離を置き、多少自分と意見が違っても、意見などぶつけず、自らの言動に多少の注意を払うようになれば、少しでも生きやすい人生になるといえます。
ただし、自分はきちんと事実を把握し、検討できる能力を持つことが大事で、これが無知でいる状況から脱する一つの手だということです。
『バカと無知』の感想・まとめ
「人間の本性=バカと無知の壁」に気づこう
本書を読んで、自分なりに考えてみました。
これまでの自分は、何の根拠もないフェイクを鵜呑みにし、それをまたよそに吹聴するといったバカ丸出しのことを平気でやっていました。大いに反省したいところです。
そもそも、人間という生き物は、本能的に原始時代から何の進化もしていないということは、これまでも他の書籍で習っているはずなのにです。
人から批判されると、悲しいし、腹も立つ・・・反論、論破したい気持ちになったりするものですが、相手だって自分が正義だと思っているのだから、ものごとが解決し収束していくなんていうことはないんです。
妥協点を見つけ、相手と対話し、解決するということは、できればいいことですが、それは相手によります。
だったら、「人間の本性=バカと無知の壁」ということに気づき、少なくとも自分がトラブルに巻き込まれないようにして心にダメージを受けないことが、とても大事だということです。
それには、まず表面上では公平であるとされている不公平な現状を知り、それを偏りのない見方をし、偏った意見を持つ人とは一定の距離を取り、事実とされることをしっかり検証・思考する頭を持つことだと思います。
本書は、2021年8月から22年6月にかけて『週刊新潮』に連載した「人間、この不都合な生きもの」に若干の加筆・修正をしたもので、読まれた人も多いと思います。
その中には、自らの言動に多少の注意を払うようになれば、もう少し生きやすい社会になるのではないかと感じたはずです。
ですので、この「残酷な真実」を多くの人に読んでいただきたいと感じました。
『バカと無知』の概要
本書の目次
『バカと無知』
まえがき
PART 1 正義は最大の媚薬である
PART 2 バカと無知
PART 3 やっかいな自尊心
PART 4 「差別と偏見」の迷宮
PART 5 すべての記憶は「偽物」である
あとがき
著者の紹介
橘玲(たちばな・あきら)
1959年生まれ。
作家。
2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部超のベストセラーに。
『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。
主な著書
『言ってはいけない―残酷すぎる真実―』新潮社 (2016/4/16)
『もっと言ってはいけない』新潮社 (2019/1/17)
『新版 お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』 幻冬舎 (2017/8/4)
『幸福の「資本」論』ダイヤモンド社; 第1版 (2017/6/14)
『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』幻冬舎 (2021/6/23)
『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』幻冬舎 (2015/4/10)
『(日本人)』幻冬舎 (2014/8/7)
『無理ゲー社会』小学館 (2021/8/3)
『貧乏はお金持ち』講談社 (2011/3/22)
『裏道を行け ディストピア世界をHACKする』講談社 (2021/12/15)
『マネーロンダリング』幻冬舎 (2003/4/10)
『働き方2.0vs4.0 不条理な会社人生から自由になれる』PHP研究所 (2019/3/20)
『不道徳な経済学 転売屋は社会に役立つ』早川書房 (2020/1/23)
『上級国民/下級国民』小学館 (2019/8/6)
『不条理な会社人生から自由になる方法 働き方2.0vs4.0』PHP研究所 (2022/3/18)
『「読まなくてもいい本」の読書案内』筑摩書房 (2019/5/10)
『女と男 なぜわかりあえないのか』文藝春秋 (2020/6/19)
『タックスヘイヴン』幻冬舎 (2016/4/12)
『バカが多いのには理由がある』集英社 (2017/1/25)
『不愉快なことには理由がある』集英社 (2016/6/28)
『「リベラル」がうさんくさいのには理由がある』集英社 (2018/7/20)
『人生は攻略できる』ポプラ社 (2019/3/6)
『言ってはいけない中国の真実』ダイヤモンド社; 第1版 (2015/3/5)
『臆病者のための株入門』文藝春秋 (2006/4/20)
『臆病者のための億万長者入門』文藝春秋 (2014/5/20)
『マネーロンダリング入門 国際金融詐欺からテロ資金まで』幻冬舎 (2013/5/31)
『国家破産はこわくない 日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』ダイヤモンド社; 第1版 (2013/3/14)
『得する生活 お金持ちになる人の考え方』幻冬舎 (2013/7/5)




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