
こんにちはコウカワシンです。
今回は、カン・チュンドさんの著書『つみたて投資の終わり方』から学ばせていただきます。
『つみたて投資の終わり方』は、どんな本?


『つみたて投資の終わり方』は、ズバリ!「老後を迎え総資産を上手に使うためのメソッド」です。
本書はこのような本
人間誰でも訪れるリタイア。
その後は長い老後生活が始まります。
現役時代にあった稼ぎはなくなり、これからは自分の資産に頼らないといけません。
投資アドバイザーのカン・チュンドさんは、「山は、上るより下るほうが難しいように、投資も積み立てるより、取り崩すほうが難しい」といいます。
そう言われてみれば、資産を積み上げるためや財テク法を説いた書籍は、たくさんありますが、積み立てた資産を有効に長く使っていくための方法を説く本は、ありませんでした。
そのカン・チュンドさんが世に出したのが『つみたて投資の終わり方』です。
最近では、「つみたてNISA」や「iDeCo」を始めた人がかなりいらっしゃいます。
本書はその人たちが、投資の出口として、参考にできる一冊です。
本書がおすすめな人
『つみたて投資の終わり方』
- 現在50代の人
- つみたて投資を行っている人
- 投資初心者
『つみたて投資の終わり方』の要点は?


山登りをしたことがある人は、わかると思いますが、上るよりは下りるほうが難しいです。
投資も同じで、資産を増やすプロセス(上り)より、積み上がった資産を売却し、それを使っていく道のり(下り)のほうがはるかに困難だと著者は言います。
本書は、積み上がった投資信託を計画的に取り崩す、投資の「下り部分」に特化した内容が満載です。



本書から、わたしの独断と偏見で、積み上がった資産を取り崩すシミュレーションについて取り上げてみたいと思います。
本書は他にも、投資を取り崩すマインドやリスクに備える方法など、とても重要な内容も入っています。
ですので、興味ある方は、ぜひ本書を手に取ってゆっくりご覧いただきたいと思います。
「積立投資」から「取崩し投資」へ
今まで積み立ててきた資産は、使うためにあります。
特に老後資金というニーズで考えれば、公的年金で不足するお金は継続するため、資金の取り崩しも継続的に行うことになります。
投資信託を取り崩すイメージは、投資信託の積立と対を成します。
たとえば、毎月残るお金の中から、一定額を規則的に積み立てた資産は、「積立投資」のマインドのまま「取り崩し投資」でも続き、積立投資と同じように、取崩し投資でも市場の急落、急騰に惑わされず、同じ姿勢を保ちます。
リタイア前のラスト5年を準備期間にしよう
投資に興味のある人は、お金を増やすマインドセットが強力です。
しかし、リタイアが近くなってきたら意識すべきことがあります。
稼ぎ、お金を得る暮らしから、取り崩し、お金を使う暮らしに移行するために、リタイア前の5年間を、現役から老後生活への「準備期間」と決めましょう。
60歳でリタイアを迎える人は、55~60歳、70歳で引退する人は65~70歳が準備期間となります。
5年かけて投資のポジションを保守化するのです。
具体的には安全資産の割合を増やしてリスク量を下げるといった感じです。
現役時代にうまく資産を増やせても、それは決してゴールではなく、「下り」に備えて気持ちの切り替えを行わないと、いつまでも資産額(数字)にこだわってしまうことになります。
全資産の8割がリスク資産だったとしたら、暴落が発生したときには、目が当てられません。
これはつまり、リスク過多という状態で、この準備期間の5年の間に少しずつマイルドな資産配分に移行させるべきです。
順序立てていくとこのようになります。
- リスク資産の割合を下げる(安全資産の割合を増やす)
- より保守的なファンドに乗り換える
- 1と2を併用する
- リスク資産の中身をスリム化する
- 投資信託の解約の練習をする
まず3までを、準備期間中に基本的にやっておき、さらには4、5にもトライします。
安全資産とリスク資産に分ける
では、先ほどから出てきている「安全資産」と「リスク資産」について取り上げてみます。
安全資産とは
名目価値が減らず元本が保証されている資産。
預貯金、個人向け国債、公募国債、MRF、円建てMMFなどを指します。
証券口座での預り金(円)も含みます。
リスク資産とは
名目価値(円建てベース)が変動し、元本確保がなされていない資産を指します。
安全資産とリスク資産の比率が定まれば、リスクに対する選好度がだいたい決定します。
たとえば、同じ投資信託(リスク資産)を保有する場合、「安全資産:リスク資産」の割合が、「5:5」よりも「3:7」のほうが背負うリスクが大きいです。
あるいは同じ「安全資産:リスク資産」の割合が、「5:5」でもリスク資産の中身が個別株か投資信託かでリスク量は違ってきます。
ですので、リタイア前の準備期間に一度「資産の棚卸し」をしてみる必要があります。
まず、保有する金融商品とその時価を洗い出し、それらを「安全資産」と「リスク資産」に振り分け、それぞれの比率を算出します。
それができると次のステップに移行します。
リスク資産を管理しやすいように一本化していくのです。
実際のリスク資産には、投資信託、ETF、個別株、外貨建て保険、外貨預金、社債などがあることでしょう。ですが、投資後半におけるリスク資産は投資信託のみで十分だと著者は言います。
リスク資産を1本化する
投資後半におけるリスク資産を投資信託のみでいいとは、乱暴だと言われる人もいますが、老後の生活では積み上げた資産から直接、生活費の一部を得ます。
資産の額の増減が暮らしに直接影響を及ぼす、その心理的なプレッシャーを過小評価すべきではないというのが著者の意見です。リスク資産をスリム化することにより、資産の管理と取り崩しのオペレーションを簡素化できるのです。
本書で提唱しているのが、リスク資産を1本のインデックスファンドに集約する方法です。
そのことで、投資に余計な変更を加えにくくなります。
リタイア前の準備期間中に、資産管理の最適化を目指したいものですね。
4つのおすすめファンド
リスク資産を1本のインデックスファンドに集約するうえで、重要なのがどのファンドに集約するかです。
本書では、全世界株式インデックスファンドか、バランスファンドに1本化することを奨めています。
全世界株式インデックスファンドは、「世界株」全体への投資を可能にし、バランスファンドは、株式、債券など異なる資産を組み合わせた投資信託になります。
本書がおすすめするのは次の4つのファンドです。
- eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー)
- eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
- 楽天・インデックス・バランス・ファンド(均等型)
- 楽天・インデックス・バランス・ファンド(株式重視型)
1.eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー)
投資信託もいろんな商品がありますが、本書で推奨しているのが「全世界株式インデックスファンド」で、その中でも、「eMAXIS Slim 全世界株式(オールカントリー)」がイチ推しだといいます。
このファンド1本で、日本、先進国、新興国の数千の株式を網羅していることが特徴です。
2.eMAXIS Slim バランス(8資産均等型)
このファンドを構成しているのは、8つの投資商品です。
- 国内株式(12.5%)
- 先進国株式(12.5%)
- 新興国株式(12.5%)
- 国内債券(12.5%)
- 先進国債券(12.5%)
- 新興国債券(12.5%)
- 国内リート(12.5%)
- 先進国リート(12.5%)
このように保有割合は12.5%ずつで均等です。
資産の分散、国・地域の分散が単純明快になされています。
8資産均等型は、特定の資産や特定の地域に肩入れはしません。8つの投資対象と「等距離」を保ち、「どの資産がベストになるかはわからない」という考え方を貫きます。
3.楽天・インデックス・バランス・ファンド(均等型)
このファンドの構成は、次のような株式と債券の50:50です。
- 全世界株式50%
- 投資適格債券(為替ヘッジ)50%
ファンド・オブ・ファンズ形式であり、バンガードの全世界株式ETFとバンガードの全世界債券インデックスファンドを1/2ずつ買い付けます。(債券部分は為替ヘッジあり)
連動を目指す指数は異なりますが、当該ファンドの株式部分はオール・カントリーと同じコンセプトを持ちます。
「ファンド・オブ・ファンズ」とは、複数の投資信託を組み入れる投資信託のことです。
為替ヘッジとは、為替取引等を利用し、円高・円安といった為替変動による損益を回避(ヘッジ)することをいいます。
4.楽天・インデックス・バランス・ファンド(株式重視型)
このファンドの構成は、次のとおりです。
- 全世界株式70%
- 投資適格債券(為替ヘッジ)30%
バンガードの全世界株式ETFを70%、バンガードの全世界債券インデックスファンドを30%買い付けます。(債券部分は為替ヘッジあり)
楽天・インデックス・バランス・ファンド(均等型)の兄弟ファンドです。
トータル資産から3%で取り崩す
それでは、資産から取り崩していくという話をする前に、ひとつたとえ話をします。
~ここに栄養たっぷりの温泉水があります。健康のためにその温泉水を1日1杯飲み続けたいとします。
ところが小さめのタンクに入った温泉水は、大量にお湯が出る時期があれば、まったくお湯が出ない時期もあります。
なるべく長く1日1杯の温泉水を飲み続けるためには、どうすればいいでしょうか?~
その答えは、
お湯が多めに出るときには、1杯飲みつつ、たくさんのお湯をセーブしておきます。これで、お湯が出ない時でもタンクからお湯をくむことなく、先にセーブしておいたお湯を飲むことができます。
これを投資の取り崩しに関連させます。
お湯(温泉水)とお湯をセーブする器は、投資に関連させると次のとおりになります。
- お湯(温泉水)=「リスク資産」(投資信託)
- お湯をセーブする器=「安全資産」(預金等)
リスク資産が膨らんだ年は、多めにファンドを解約して取り崩しに充てるとともに、一部を安全資産に移します。これが、温泉水がたくさん出たときに「たくさん出たお湯をセーブ」しておくという意味です。
逆にリスク資産が落ち込んだ年は、ファンドの解約をせずに安全資産からのみ取り崩します。これが「お湯が出なかった時は、セーブしたお湯から先に飲む」という意味です。
この記事では、細かい取り崩しのやり方は、割愛しますが、老後の資産管理において、安全、リスク資産はそれぞれ独自の役割を担います。
互いが補い合うことで、資産を長く持たせることが可能になるということです。
そのうえ本書では、「安全資産」「リスク資産」双方から、取り崩し配分は変えながらもトータルで定率3%ほどを取り崩すことを推奨しています。
仮にポートフォリオの平均リターンがプラス3%になるなら、毎年「3%」を取り崩しても、20年後の資産価値(名目)は理論上変わらないといわれています。
しかし毎年の損益は大きくブレるため、おおむね平均3%のリターンを獲得できたとしても、年3%の取り崩しを続けるなかで、資産はしだいに減っていくと見ておきましょう。
注:(それにプラスして、投資信託の売却益に対する「税金分」資産は目減りします)
リタイア時にいくら必要か?
リタイア時にいくら資産を用意すればいいのでしょうか?
本書では、リタイア時に必要な資産の目安を3000万円とします。
総資産額3000万円を年3%で取り崩せば、当初年90万円の取り崩し額となります(月ベースでは7.5万円)。
長く会社員として勤めた人ならば、公的年金と合わせて慎ましく生活することは可能ですね。
そこでAさんとBさんの「事例」を比べてみたいと思います。
AさんBさんともに65歳。
資産の基本比率は同じで、保有する投資信託も共に「8資産均等」です。
予定している取り崩し率は年「3%」です。
唯一異なるのが月の「生活不足額」です。
【Aさんのケース】



安全:リスク=35%(預金):65%(8資産均等)
(期待リターン3%程度)
月の生活不足額 7万円程度
【Bさんのケース】



安全:リスク=35%(預金):65%(8資産均等)
(期待リターン3%程度)
月の生活不足額 20万円程度
Bさんは生活不足額が20万円になります。
年240万円相当の不足分を「資産の3%程度」とするためには総資産額が8000万円必要になります。
いっぽうで、Aさんは月の生活不足額が7万円のため、年84万円の不足額を「資産の3%程度」とすると、必要な総資産額は2800万円ということです。
つまり、必要な資産額に影響を与えるのは、リタイア後の暮らしの中身(支出額)なのです。
仮にBさんの資産が現在6000万円として、取り崩し率が年3%であれば、当初の取り崩し額は月15万円になります。これは、取り崩し希望額(20万円)には5万円ほど不足します。
「取崩し希望額」と「取崩し可能額」の間に差が生じるということですが、生活者として、日々の暮らしにメリハリを付け、支出額について妥協ができるか(月々の生活費に工夫ができるか否か)が、取り崩し期を支える意外なポイントになるということです。
ですので、自らできることは検討してみましょう。
たとえば、次のようなことが挙げられます。
- 固定費の見直し
- 保険関連の解約
- クルマを手放す
- 住宅資産のダウンサイジング
- 地方移住
都心にお住いの人なら、地方移住することで、住宅関連費、食費等を引き下げることが可能です。
ただしクルマが必要ない、おおむね人口30万人以上の都市かそれに準ずる場所であることが条件になるでしょう。
とにかく言えることは、まとまったお金があったとしても、ふだんはその資産を遠ざけ、毎月の暮らしの支出を抑えることに注力するべきなのです。
『つみたて投資の終わり方』の感想・まとめ


資産にマウントされるな
本書は、投資マニュアルといっても、お金を積む(足し算)から、お金を崩す(引き算)に向かう道のりについて数多くの注意点、お金を使う方法に特化した本でした。
たしかに資産形成は人それぞれですし、老後に使うお金も人それぞれです。
実際に「お金の使い方」を考えたことはありますか?
宵越しの銭を持たない人はともかく、それなりに預貯金を中心に投資商品を購入し、それなりに老後に備えている人が多くいると思います。
聞く話では、「死ぬ前が一番お金持ち」状態の人も多くいるそうです。
それはそれでいいのでしょうけど、本書では、「資産はこころの負債」だともいいます。
いくらたくさんの資産があったとしても、その資産は出来るはずだった経験(思い出)の未購入額ということもできるからです。
人生は有限。お金は利用してこそ、その価値が最大化されます。
ところがわたしたちは、積み立てることが投資であり、老後を迎えたとしても増やすことしか考えていない人が大勢です。
それは老後の生活をイメージしにくいからだと思いますが、本書のように老後を迎えたときのことをシュミレーションし、適正なリスクを取りつつも、取り崩した資産を有効に使い、そして長続きさせるための方法を教えてくれました。
今回、紹介こそできませんでしたが、まだまだ取り崩すための方法論が満載です。
ぜひ手に取って読んでみることをおすすめします。
『つみたて投資の終わり方』は、現在(2022年11月23日時点)amazonの本読み放題サービス「キンドルアンリミテッド」の対象になっています。
キンドルアンリミテッドは、ビジネス書からマンガまで幅広いジャンルの本が読み放題です。ぜひこの機会にご検討ください。
『つみたて投資の終わり方』の概要


本書の目次
『つみたて投資の終わり方』
はじめに
序章
第1章
♦ リタイア近辺、ふたつの症例
♦ 老後のスイッチをONにする
♦ 生涯投資=積立期+取崩し期
♦ 積立のマインドを思い起こす
♦ 増やす率と取り崩す率を同じに
第2章
♦ 誰にも訪れるXデー(退職の日)
♦ 支出のメリハリを付ける
♦ 老後は投資が侵食しやすくなる
♦ もしもリタイア直前に暴落が発生したら?
Column1
第3章
♦ リタイア前のラスト5年を準備期間に
♦ 安全資産とリスク資産に区分け
♦ リスク資産の割合を下げる
♦ 高配当株戦略は有効なのか?
♦ ファンド売却益に対する税金について
Column2
第4章
♦ 準備期間中に投資信託を1本化
♦ 内側のリ・バランス、外側のリ・バランス
♦ 全世界株式インデックスファンドに1本化する
♦ バランスファンドに1本化する
♦ 投資信託の任意解約にトライする
Column3
第5章
♦ NGな取崩し法とは?
♦ 定額の取崩しはおすすめしません
♦ 定額取り崩しミュレーション
第6章
♦ (簡易版)定率取り崩し
♦ 投資信託からの定率取り崩しのみ
第7章
♦ トータル資産からの定率取り崩し
♦ 気持ちのブロックを取り除く
♦ 臨時の取り崩しについて
♦ 安全資産とリスク資産が行き来する
♦ 取り崩しの2つのパターン
♦ マイナスの年も取り崩しを止めません
第8章
♦ お勧めのポートフォリオ「4つのパターン」
♦ 取り崩し率は3%を推奨
第9章
♦ インフレ率の影響
♦ リタイア時にいくら資産が必要?
♦ 取り崩し率を下げられる条件とは?
Column4
第10章
♦ リスク資産の中身をグループ化
終章
おわりに
著者の紹介
カン・チュンド
投資信託クリニック代表 インデックス投資アドバイザー
米国シトラスカレッジ中退。
23歳から1年間、インド・東南アジア各国を放浪する。その後不動産会社に6年間勤務。
1999年にファイナンシャルプランナーの資格を取得後、2000年に晋陽FP事務所(当時)を設立。2019年に屋号を投資信託クリニックに改称。2,000名を超えるお客様から、ポートフォリオ構築、積立、資産の取り崩しに関する相談をオンライン上で受けている。クリニックのモットーは「夜ぐっすり眠れる資産運用」。
シンプルで継続しやすい投資を続けた結果、資産額が積み上がったお客様の報告を聞くことが何よりの楽しみ。サービスの中立性を保つため開業以来、金融商品の斡旋・販売には一切タッチしていない。
クルマなし。住まいは賃貸。唯一入っている保険はこくみん共済。お気に入りは散歩、読書、ココナツサブレ、国立西洋美術館。
Twitter @4649kang
主な著書
『毎月5万円で7000万円つくる積立て投資術 』 明日香出版社 (2009/6/17)
『ETF投資入門』日経BP (2010/10/15)
『ラクして増やそう!バラつみ投資』Kindle版
『最新 資産設計はポートフォリオで考える 投資信託35の法則』ソーテック社 (2010/3/18)
『日本人が知らなかったETF投資』翔泳社 (2008/8/29)


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