『13歳からの地政学』は、どんな本?
『13歳からの地政学』は、ズバリ!「世界の本音を理解するための本」です。
本書はこのような本
「地政学」って、なに?
このように思われた方も多いのではないでしょうか。
「地政学」とは、地理学と政治学を合わせた用語で、国の地理的な条件をもとに、政治的、社会的、軍事的な影響を研究する学問における研究分野を意味します。
今注目を集めているのが「地政学」ということなのですが、地理的な位置関係によって、ある特定の地域が、政治的・社会的・軍事的な緊張が高まるリスク、これを❝地政学リスク❞と言います。
この地球上では、いつの時代も戦争が繰り返され、2022年2月24日から始まったロシア軍のウクライナ侵攻は、地政学リスクが引き起こした惨事だといえます。
つまり、この世で生きる者は皆、地政学リスクにさらされているといっても過言ではなく、日本も例外ではありません。
この『13歳からの地政学』は、「地政学」がわかれば、歴史問題の本質、ニュースの裏側、国同士のかけひきなどのふつうでは知り得ない事実が見えてくる一冊です。
大人はもちろん子どもにも知っていてほしい世界の事情がわかるということです。
本書がおすすめな人は?
『13歳からの地政学』が、おすすめな人
日本国民全員




『13歳からの地政学』の要点は?
大人はもちろんのこと、子どもも知っておくべきというコンセプトで書かれたのがこの『13歳からの地政学』です。
毎日のニュースで、世界の紛争が取り上げられたり、地域によっては経済的に裕福なところ、いつまでも貧困にあえぐところがあるのはなぜでしょうか。
それから、我が国日本が抱えているリスクとは何でしょうか。
本書は、いろいろな課題を7つに分け、大樹(だいき)という進学校に通う高1の青年、大樹の妹で中1の杏(あん)が、その風貌から「カイゾク」とあだ名されるアンティークショップを営む老人から「地政学」を学ぶという物語調に仕上げられています。
「カイゾク」から学ぶことで、兄妹が知見を深めそれぞれの考えを持ち成長していきます。
それは、たぶん読者にとっても学びを感じることができる一冊であります。



本書から、わたしの独断と偏見で、「へえ~」とうなった部分を取り上げてみたいと思います。
物も情報も海を渡る
海を支配する最強の国アメリカ
地球の7割は海で、陸地が3割です。
国から国へ物を売り買いして運ぶとき、世界中の貿易は9割以上が船を使って行われています。つまり船が通る航路は人間でいう大動脈ということになります。
その世界の船の行き来を仕切る国が、アメリカです。世界最強の海軍を持ち続けるために毎年10兆円以上の費用を投じて、世界の海に軍艦を展開している国、それがアメリカです。
自国と遠く離れた地球の裏側にまで、軍艦を展開しているのには訳があります。
もしどこかの国とトラブルになったとしても海さえおさえておけば、その国の貿易を止めることで倒すことができます。つまり、いつ戦争になっても勝てるように、海を見張れる国がアメリカであり、世界一強い国というとてつもないメリットを保持しているのです。
みんなが船で運ぶ理由
「じゃあ、船ではなく陸路で運べば、アメリカの影響下から逃れられるじゃん」と、そのような声も出て来そうです。
たとえば、ロシア・北カフカス産のハチミツを日本に輸入する場合、海を通ると、大西洋から地中海に入り、スエズ運河を通って、インド洋に出ます。そこから東南アジアを通過して太平洋に出て、日本に入ってきます。


ロシアは、日本の近くまで、領土があるのに鉄道で運ばずにわざわざ遠回りして船で、貿易をする場合が多いのです。
それには理由があります。
まず、自分が貿易会社の社長だとして、物を運ぶときに、大事にすることは、
- なるべく安く運んで利益を出すこと
- 期日までには必ず届けること
ですよね。
このロシアの場合ですと、日本に物を運ぶ場合に陸路を使えば、それができないことがあるそうです。
まず、ロシアのヨーロッパに近い西側地域に比べ、アジアに近い東側は道路や鉄道といった交通手段があまり整っていないのです。道路や鉄道が未発達なのは、この東側の地域にあまり人が住んでいないからというのが理由です。
ロシア国内からシベリア鉄道で、極東まで荷物は運べても、そこから日本向けの船に積み込む手間が結局かかります。しかもシベリア鉄道は安定していなくて信用もありません。だから陸路が経費的・時間的に最適とはいえないのです。
これは、ロシア国内の問題というわけですが、その他にも陸路を使った貿易の障害として、いろんな国を通過するたびに税金を払ったり、手続きが大変で決まったスケジュールで運べないなどのハードルもあるケースが多いです。
一方、船だったらいったん荷物積み込んで出航すれば、目的地の近くの港にまで運ぶだけで済むし、そこまでかかる日数もだいたい予測できます。
そのようなわけで、多くの貿易は船によって行われているのです。
情報も海から
世界中に張り巡らされたインターネット網は、どのようにしてデータのやりとりをしていると思いますか?
「人工衛星を経由して」と思う人が大半だと思います。でも実際にはデータのやり取りは99%、光ファイバーを束ねて作られた海底ケーブルが使われているそうです。
そして、世界で一番多くの海底ケーブルを張り巡らせているのがアメリカです。2番目はイギリスということです。
つまり、アメリカは世界の情報さえもおさえているのです。
データが通る場所をおさえれば、世界中のデータを盗み見して、他の国が知られたくない情報を得ることができます。
情報を抑えることのメリットを本書の中で「カイゾク」が、このように語っています。
「20世紀のはじめ、世界で一番強い国だったイギリスは、ヨーロッパとアメリカ大陸を結ぶ海底通信ケーブルをほとんど独占していた。その頃に起きた戦争が、第一次世界大戦だ」(カイゾク)
「イギリスはドイツと戦って勝ったんですよね」(大樹)
「そうだ。イギリスはドイツがメキシコに送った電報をひそかに盗み見した。そうして得られた情報を使ってイギリスはアメリカを味方に引き入れて、戦争に勝つことができた」(カイゾク)
何年か前には、当時ドイツのメルケル首相の携帯電話を長年にわたって盗聴していたことが明らかになりました。大問題になったものの、いつの間にかうやむやになりました。


結局、一番強い国が悪いことをした時に、それを裁ける国はないということです。
最近でも、「ウクライナ戦争」で、アメリカは多くの情報から予想し、ロシア軍の行動を的中させています。このことから、アメリカの情報収集能力の高さと戦略の速さを知ることができます。
日本のそばにひそむ海底核ミサイル
核ミサイルはどこにある?
「非核三原則を掲げる日本は、核なんか関係ない」と考えていては、世界の動きを見誤ります。
日本の周りを見てみましょう。ロシア、中国、北朝鮮と、核兵器を持っている国ばかりあります。もちろん日本の同盟国アメリカも核兵器を持っています。
その他世界的に見ても、イギリス、フランス、インド、パキスタン、イスラエルなどの国が持っています。


核兵器は、通常ミサイルなどに搭載します。
では、その核兵器はどこにあるか考えたことはありますか?
それは誰も知りません。核兵器は通常、他の国にわからないところに隠されています。もし陸上のどこかに隠してあるのなら人工衛星で場所を特定できそうです。
つまり、地上へ秘密を保ったまま隠すということは困難なのです。そこで、誰も手出しできない「海」の中に隠すということが考えられます。
核を最強のアイテムにする3つの条件
アメリカとロシアは、いつまでも潜っていられる原子力潜水艦、海の中からミサイルを発射する力、潜水艦を隠すための深く、自分の縄張りにできる安全な海という3つの最強アイテムを完全な形で保持しています。
とくにロシアは、北海道の北のオホーツク海の水深が3000メートル以上もあり、周りを自国の領土で囲われたところに原子力潜水艦を隠している可能性が高いのです。
照準先はアメリカ。世界最強のアメリカは、ロシアにとって最大のライバルであり、東西冷戦のころから今もアメリカに攻撃されるようなことがあれば、すぐに反撃できるように準備しています。
ロシアがこの3つの最強アイテムを手に入れているので、アメリカも自国が滅びない形でロシアを倒すのが難しいのです。
中国が南シナ海を欲しがる理由
経済発展がめざましく軍備も拡張し続けている中国。
中国は核ミサイルを保持し、それを搭載し発射できる原子力潜水艦も持っています。
その中国が持っていないのが、ロシアにとってのオホーツク海のような自分で自由にできる海です。そこで目をつけたのが、南シナ海です。
南シナ海の海は平均水深が1000メートル、最も深いところは500メートルもあり、原子力潜水艦を隠すには最適です。
ですが、南シナ海は国際的な海で、アメリカ軍の船も自由に入ってこれます。そこで、南シナ海を自分のものにしたい中国が沿岸の国とトラブルを起こしながらも、この海を一人占めにするメリットがあるのです。


絶対に豊かにならない国々
なぜアフリカにはお金がないのか
アフリカ大陸は、見ての通り大きな大陸で、地下資源も多いところです。広さで日本のおよそ80倍、人口も日本の10倍以上います。
しかし、1人当たりのGDPは、日本の20分の1です。つまり、世界で最も貧しい地域であるといえます。
ただふつうに、豊富な地下資源を売るだけでたくさんのお金が稼げるはずなのに貧しいままなのはどうしてでしょうか?
それは、国のお金を、政治家が海外に流しているからです。
アフリカの歴史を振り返りますと、第2次世界大戦が終わる前までは、ヨーロッパの国々の植民地として支配されていました。そこに住む人を奴隷のように使ったり、天然資源を売ったお金を自国の富にしていたのです。
1960年ごろには、それぞれの国が独立したものの今でも貧しいことには変わりません。
その理由が、国からお金を外国に流そうとするアフリカの政治家たちと、それを吸い上げようとする欧米の政治や経済の有力者たちが、タッグを組んでいるからなのです。
どのような流れかというと、アフリカの政治家が、お金を勝手にふところに入れて、自分のものにする。そして外国の有力者が、複雑なしくみを経由して、自分の国にお金を流すという感じです。
つまり、お金を血液と考えると、人間が食事で栄養をとり、血を作って体の中で循環すれば、体も成長するようにその国も発展していきますが、その血を抜かれ続けたら、発展なんてするはずがありません。
実際、アフリカはこの数十年、ずっと血を吸い上げられてふらふらの半病人のようにされていたのです。
これは、アフリカのリーダーたちが悪いといえます。それともうひとつ、独立のときに欧米が引いた国境線が問題でもあったのです。
アフリカはもともと多民族が入り混じった地域で、それをヨーロッパの国々が100年間、それぞれをひとくくりにして支配してきました。
それを自分らの都合で国境線を引いたのです。独立したはよかったが、いろいろな民族や部族をまとまりもなく国民として抱えることになった国々に起こったのが民族問題です。
民族問題を早急にまとめるためにはどうしても力ずくになります。アフリカに軍事政権や独裁政権などの軍をバックにしたリーダーが多いのもこういう事情があるのです。
アフリカのリーダーたちは力ずくで国をまとめたものの、お金を広く国民のために使わずに、自分の民族の身内だけを優先します。これでは、いくら天然資源がたくさんあっても国全体が潤うことはありません。
それでも、お金が海外に流れる理由にはなりません。なぜなら、ふつうに自分のふところに入れればそれでいいはずです。
しかし、ふところに入ったお金は、いわば汚いお金です。それを使ったり貯めたりすることはできないのです。
そういうお金は、まずタックスヘイブンと呼ばれる場所に送られます。
タックスヘイブンは、税を逃れることができる場所という意味です。そこでのお金のやり取りに税金がほとんどかからず、汚いお金もこっそり取引できます。
それでは、タックスヘイブンについて見ていきましょう。
お金持ちの国にお金が流れる仕組み
タックスヘイブンとして有名なのが、カリブ海に浮かぶケイマン諸島です。
ヨーロッパやアメリカの有力者が、アフリカの政治家のお金の持ち出しや浄化に協力し、自国にお金が流れるようにする。そのようにして、天然資源から得たアフリカの富は、いまだに先進国に流れているのです。
その額は、累計で100兆円を超えるとの研究もあるそうです。


それでは、なぜヨーロッパの有力者たちが、自分のお金にもならないのにアフリカのリーダーたちのお金の浄化に協力するのでしょうか。
理由は「投資」です。
たとえば、ヨーロッパの有力者が自分の土地を売りたい場合です。その町は大都市だけど、人口はそんなに増えていない。つまり、人がほしいと思わないような土地なのです。
儲けるには、土地の値段を上げないといけません。そこで、アフリカの政治家にその町の土地をどんどん買ってもらいます。そうなると、土地の値段も上がり、自分たちの土地も高い値段で売れることになります。
そして土地を高く売ったお金で、新たに家を建てたり、別の場所に土地を買ったりします。
このようなことの繰り返しで、ヨーロッパの有力者たちは、どんどんと資産を増やしていくのです。
多民族でも豊かになった小国シンガポール
シンガポールは、世界有数の豊かな国で、観光でも人気の場所です。
このシンガポールも第二次世界大戦のあとに建国されました。多民族(中国系、インド系、マレー系)の人々が暮らしていて、一見まとまりがないように思います。
ですが、そのようなことはありません。
建国の父、リー・クワンユー氏が、民族間で争いが起きないように徹底的に手を打ったからです。
たとえば、一つの団地の中でもいろんな民族が一緒に住むようにして、ある民族だけしか住まない団地ができないようにしました。
そして、民族の間での争いにつながるような行動は、徹底的に取り締まったのです。
これにより、民族を超えたシンガポール人という意識を持った人たちが増えてきたのです。
国民に、安くアパートを買える権利を与えたのもその一環だといいます。
もし国が発展すれば、そのアパートの値段も上がり、国の将来に、自分が豊かになれるかがかかっていると実感できれば、もしもの有事に国のために本気で戦える国民になるという取り組みをされたのです。
結果、多くの民族の人たちが互いに協力できるようになり、天然資源もないシンガポールは、世界でも輝ける国になったのです。


『13歳からの地政学』の感想・まとめ
この物語は、7つの講義から、最後に「カイゾク」が出す問題に大樹と杏が答えるという形で、終わりを迎えます。
「カイゾク」が出した問題というのが「自分にとっての世界の中心はどこか?」でした。
この問題、皆さまならどう答えますか?
わたしは固定観念の塊だからか「世界の中心はアメリカ」と思ってしまいました。
ですが、この二人の答えは違います。
大樹は、「地球に中心は存在しない。地球は丸く、常に動き続けているからである。無理に中心を探そうとすることは、自分の視野をせばめることになる。物事には様々な見方ができることを自覚し、地球儀を遠くから静かに眺めるように世界を見たい」と答えました。
杏は、「私にとっての世界の中心は、私です。そして私の中心が私であるように、世界中の人それぞれが立つところが、その人にとっての中心です。自分が見ている世界と、みんなが見ている世界が違うことをみんなが忘れないでいたら、世界は平和になると思います」と答えました。
いやあ、どちらも素晴らしい答えを出しましたね。
「カイゾク」も二人の答えに感激し、それぞれにコメントを残しました。
地球は動いています。そして時間が経つごとにさまざまな変化を見せています。このことから世界はいろんな角度から見なければいけないというのを教わった気がしました。
今の日本は、世界第3位の経済大国で、比較的治安のよい国として、世界に知られています。
ですが、様々な要因から見て、この平穏な日常がいつ破られるか誰にも予想はできません。
決して、危機感をあおるためではありませんが、そのことに気がつくためにも、ぜひたくさんの人に本書を読み、「地政学」から、日本を見ていただきたいと感じました。
『13歳からの地政学』の概要
本書の目次
『13歳からの地政学』
プロローグ カイゾクとの遭遇
【1日目】 物も情報も海を通る
【2日目】 日本のそばにひそむ海底核ミサイル
【3日目】 大きな国の苦しい事情
【4日目】 国はどう生き延び、消えていくのか
【5日目】 絶対に豊かにならない国々
【6日目】 地形で決まる運不運
【7日目】 宇宙からみた地球儀
エピローグ カイゾクとの地球儀航海
著者の紹介
田中孝幸(たなか・たかゆき)
国際政治記者。
大学時代にボスニア内戦を現地で研究。
新聞記者として政治部、経済部、国際部、モスクワ特派員など20年以上のキャリアを積み、世界40カ国以上で政治経済から文化に至るまで取材した。
大のネコ好きで、コロナ禍の最中に生まれた長女との公園通いが日課。40代で泳げるようになった。




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