
こんにちはコウカワシンです。
今回は鈴木博毅(すずき・ひろき)さんの著書『「超」入門 失敗の本質』から学ばせていただきます。
本書は、1984年に初版された『失敗の本質』の内容をよりわかりやすく、そして現代にも教訓として生かせるように解説してくれている一冊です。
この『失敗の本質』ですが、旧日本軍が戦った第二次世界大戦とものづくり日本として経済大国として一時、世界を席巻していたのに今や終焉を迎えようとしている姿を重ね合わせ、日本人の気質やこれからどうあるべきかを解説した本です。
「想定外」・・・今、この言葉が大流行りなくらい使うシーンが多すぎます。大きな災害の頻発、高齢化社会、出口の見えない長期不況、コロナウィルスの流行など、誰が想像していたでしょうか。
つまりは「これまでのやり方では通用しない」ということです。
そこで、『失敗の本質』の出番となるのですが、なんせ書いてあることが論文風で難しい。そこで、本書 『「超」入門 失敗の本質』 が必要となってくるのです。
できれば、二冊を交互に読むと理解度が上がると思います。
『「超」入門 失敗の本質』 は誰におすすめか?
本書がおすすめなのはこんな人です。
『「超」入門 失敗の本質』 がおすすめな人
- 何をやっても成果が出ないと感じる人
- 組織運営に悩んでいる人
- 合理的にものごとを考えたい人




『「超」入門 失敗の本質』 はどんな本?
本書の目次
『「超」入門 失敗の本質』 (日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ)
失敗の本質とは? 日本軍の組織的研究
序章 日本は「最大の失敗」から本当に学んだのか?
第1章 なぜ「戦略」が曖昧なのか?
第2章 なぜ、「日本的思考」は変化に対応できないのか?
第3章 なぜ、「イノベーション」が生まれないのか?
第4章 なぜ、「型の伝承」を優先してしまうのか?
第5章 なぜ、「現場」を上手に活用できないのか?
第6章 なぜ「真のリーダーシップ」が存在しないのか?
第7章 なぜ「集団の空気」に支配されるのか?
おわりに 新しい時代の転換点を乗り越えるために
著者の紹介
鈴木博毅(すずき・ひろき)
ビジネス戦略、組織論、マーケティングコンサルタント、Consulting代表。
1972年生まれ。 慶應義塾大学総合政策学部卒業、京都大学経営管理大学院(修士課程)修了。
卒業後は、貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。
その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。
戦略論や企業史を分析し、負ける組織と勝てる組織の違いを追求しながら、失敗の構造から新たなイノベーションへのヒントを探ることをライフワークとしている。
現在、ビジネス戦略コンサルタントとして、国内のみならず海外でも活躍中。顧問先には、オリコン顧客満足度ランキング1位を獲得した企業や、特定業界での国内シェアナンバーワン企業などがある。
主な著書
『「超」入門失敗の本質』ダイヤモンド社(2012/4/5)
『超入門学問のススメ』ダイヤモンド社(2013/3/28)
『実践版孫子の兵法』プレジデント社(2014/10/17)
『実践版三国志』プレジデント社(2016/5/20)
『戦略の教室』ダイヤモンド社(2014/8/28)
『戦略は歴史から学べ』ダイヤモンド社(2016/3/25)
『ガンダムが教えてくれたこと』日本実業出版社(2011/3/19)
『企業変革入門』日本実業出版社(2014/2/20)
『3000年の叡智を学べる 戦略図鑑』かんき出版(2019/12/18)
『伝説の経営者たちの成功と失敗から学ぶ 経営者図鑑』かんき出版 (2021/6/9)
『「超」入門 空気の研究』ダイヤモンド社 (2018/12/5)
『最強のリーダー育成書 君主論』KADOKAWA (2015/11/4)
『人を自在に動かす武器としての「韓非子」』プレジデント社 (2019/5/31)
『1時間で歴史とビジネス戦略から学ぶ いい失敗 悪い失敗』かんき出版 (2018/1/22)
『[図解]今すぐ使える!孫子の兵法』プレジデント社 (2015/11/25)
『信じる覚悟 超訳 西郷隆盛』KADOKAWA (2017/7/13)
『「空気」を変えて思いどおりに人を動かす方法』マガジンハウス (2013/9/5)
『好調を続ける企業の経営者は いま、何を考えているのか?』秀和システム (2017/4/25)
本書の内容
『「超」入門 失敗の本質』 はズバリ!「同じ失敗を繰り返さないために失敗から学び物事の視点を変える」です。
amazonの書籍紹介より
★14万部突破のベストセラー!
★累計70万部の組織論の名著を23のポイントからダイジェストで読む!
★『失敗の本質』の著者・野中郁次郎氏推薦!
「本書は日本の組織的問題を読み解く最適な入門書である」
■なぜ日本は同じ過ちを繰り返すのか?
今、ロングセラーの古典『失敗の本質』が再び脚光を浴びています。
震災や原発事故への国の不十分な対応、企業の不祥事、都政の曖昧な意思決定、
硬直するタテ割り組織、情報の隠蔽、ずさんなリスク管理……。
また、長年日本を牽引してきたソニー、東芝、シャープをはじめとする製造業の混迷、
国際競争の中で次々と日本企業が敗れていく現実を前に、
『失敗の本質』が明らかにした、日本的組織の病魔に再び注目が集まっています。
■日本軍と現代日本に潜む共通の構造
『失敗の本質』は大東亜戦争において、
米軍より物量や技術面で劣っていたのではなく、
日本という組織が持つ構造的・精神的な特性こそが
最大の敗因であることを明らかにしました。
戦局の前半で快進撃を続けた日本軍は、
数々の作戦の失敗から学ぶことなく、雪崩を打って敗戦へと向かいますが、
その裏では、組織が陥りやすい意思決定の矛盾や、
大本営と現地とのコミュニケーション不全といった
極めて今日的な問題が起きていたのです。
そうした日本的な組織の特性は、戦後の日本組織一般にも
無批判に継承され、今日の日本企業の凋落と衰退を
生み出す大きな要因となっています。
■途中で挫折した人でも大丈夫!
『失敗の本質』は素晴らしい示唆を含みながらも難解で、
最後まで読み通せた人、きちんと理解できた人は少ないかもしれません。
そこで、本書は若手戦略コンサルタントが23のポイントに整理して、
日本軍と日本企業が直面する「共通の構造」を、
普通のビジネスマンでも理解できるようにやさしくまとめた本です。
みなさんが所属するあらゆる組織への応用も可能です。
「あのとき」と変わらない日本人が陥る思考・行動特性を
明らかにした名著には、組織再生、日本再生へのヒントが満載です。



『失敗の本質』は、大変すばらしい気づきを与えてくれるビジネス書ですが、あまりにも難しくてわたしは読了できませんでした。ですが、この『「超」入門失敗の本質』では、わかりやすく解説してくれていて助かりました。
ですので、『失敗の本質』を「海図」、『「超」入門 失敗の本質』を「羅針盤」として合わせて読んでいくとかなりな理解が進みます。
なぜ、第二次世界大戦ではアメリカを含む連合国軍に負けてしまったのか? 今の時代でも優れた日本製品がなぜ、世界戦略的に弱いのか?・・・その本質がわからないと次のステップには進めないと思います。
ですので、ぜひ日本人が手に取るべき教科書だと言える一冊です。
よろしければ、『失敗の本質』もぜひご覧ください。『「超」入門 失敗の本質』との併読でより詳しい情報がわかります。
『「超」入門 失敗の本質』 の要点は?
時代の移り変わりは早いものです。1980年に入るまでは、優秀な日本製品が世界を席巻していましたが、今ではどうでしょうか?
スマホにいたっては、アップルやサムスンなどの外国メーカーがしのぎを削っていますし、今は日本が世界的にシェアを誇る自動車もだんだんとEVの台頭により、様子が違ってくる可能性があります。
そして今は世界的なコロナウィルスの感染拡大により、当たり前だったことが当たり前でなくなるという、いわば、これまでの常識が通じなくなってきているというわけです。
そのことについて、世界ではいろいろな情報を入手し、これからの戦略を練っています。
わたしたちはどうでしょうか?
ぬるま湯につかった意識でいては生き残ることができないのではないでしょうか?
一般の過去から学ぶことの大切さを説く書籍はたくさんあります。もちろん過去から学ぶことは大事です。ですが過去を取り上げ、「右へならえ」ではいけません。
過去の情報を基に今やこれからに合うようにアップデートしていくべきなのです。
それについて『失敗の本質』は、かなりな教訓を与えてくれます。そしてさらにわかりやすく読みやすい『「超」入門 失敗の本質』は、解説も交えわたしたちに教えてくれます。



そこで、『「超」入門 失敗の本質』からわたしの独断と偏見で要点を取り上げてみました。
日米の違い、昔と今
日米の違いとして昔も今も変わらないのが、戦略を重視したアメリカと戦術を重視した日本という構図です。
戦略とは、「特定の目的を達成するために、大局的な視点で組織行動を計画・遂行する方策、通則」で、戦術とは、「手段や操作(オペレーション)」を指します。
戦略は戦術の上位概念であり、その規模や視点に違いがあります。戦略であれば、マクロ的視点から準備・計画・運用を行いますが、戦術はミクロ的視点から具体的方法の計画・運用を行います。
そもそも日本は、戦略(新しい指標)をつくり出すことが苦手で、偶然に見つけ出した指標や鍛錬や技術革新で勝利していくことに長けています。
もともと、もの作りの国であった「職人芸」的な要素が多分にあり、伝統を守り技に磨きをかける精神力をもつ国民性がそうさせたのだと思います。
ですので、日本軍においてもパイロットの腕前は世界一というまでに鍛錬を重ねた精鋭たちがそろっていたし、砲撃や魚雷の命中率も抜群というまでに技術を磨いたのです。
敵を見つける能力も高く、8キロ先の軍艦を識別できるまでに鍛錬されていて、戦争が始まったころはアメリカ軍を悩ますまでに押していたということです。
一方アメリカは、戦略を練るのが得意です。それは新たな指標を生み出すことに長けているといえます。いわば、ゲームのルールを変えて勝つことに視点を置いていたのです。
たとえば、誰がやっても撃墜できる武器の開発や操縦技術がおとり敵機から攻撃されても防御できる戦闘機、そしてレーダーを活用したシステムで戦況を著しく優位にしていきました。
これを頭のすみに置いておき、ポイントを押さえていきます。
日本軍の努力の70%は無意味だった
第二次世界大戦では、太平洋の覇権をかけて日米が激突しました。ミッドウェー作戦では、日本の連合艦隊が戦力的に優勢だったということです。
そして、太平洋上の25の島のうち、日本は17島、アメリカは8島ほど上陸占拠しました。ですが、その25のうち7割が戦略上無意味だったといいます。
つまり、日本軍の努力の70%もが「目標達成につながらない勝利」に費やされたとのことなのです。これでは、日本軍が最終的に勝利をつかめないのは無理ないですね。
もともと日本軍は戦力総数でアメリカ軍に勝り、多くの島を攻略することができました。ですが、アメリカ軍を抑止する効果のない17島に占拠し目標達成につながらない勝利を重ね、大局的な戦略を持っていませんでした。
アメリカ軍は抑止効果のある8島にしぼり、基地には兵員を分散させることなく増強していたということです。
そして、戦略を実現する方法が「戦術」であるとすれば、17もの島を攻略できたのも戦術勝ちといえますが、アメリカ軍の空母を撃沈する前に日本側の空母が沈んでしまっては戦術的に島を維持することはできません。
いかに優れた戦術で勝利を生み出しても、最終目標を達成することに結びつかないのであれば意味はないということです。



「ガラパゴス化」という言葉は、孤立する日本製品の独自の進化を指すときによく使われましたが、いくら高度な機能(戦術)をもっていても最終的なシェア競いで敗れてしまえば、最終的な勝利に結びつかない・・・そんな感じとよく似てると思いますね。
インテルと日本電機メーカーの「指標」の違い
パソコンのマイクロプロセッサ(MPU)の大手企業で名高いインテルは有名ですよね。2012年当時でもパソコン向けMPUでは世界シェア8割と、ほぼ独占的地位を手に入れました。
インテルの優れたところは、MPUを開発する際に、単にMPUの性能を高めるのではなく、MPUと組み合わせることでパソコンの基幹部品となるマザーボードを開発した点です。
このマザーボードは扱いやすく、「マザーボード+MPU」の組み合わせを活用した新たなパソコンメーカー世界で誕生することになります。
実はインテルという会社、メモリ(DRAM)の開発会社でしたが、1980年代には日本企業の販売攻勢に大苦戦し、1985年にはメモリ事業から撤退しています。
一方で、日本企業を含めた他社では、MPUの「処理速度」を追いかけていたのです。安価で高性能な日本製品は性能面でも遜色なく、インテルが全面敗北する形で撤退したのでした。
そこで、インテルはMPUの開発と販売において、「処理速度」よりも「活用しやすさ」という指標に切り替え、他社製品を圧倒していきました。



勝利につながる「指標」をいかに選ぶかが戦略であり、性能や価格面で一時的に勝利しても、より有利な指標が現れれば最終的な勝利にはつながりません。
たとえば、レーシングカーのような高性能エンジンを搭載したとしても公道を走るにはもてあまします。それよりも乗り心地や快適性を追求する方が万人向けしますよね。
乗るユーザーが、求めるもの・・・それを「指標」とするならば、それを追求する姿勢こそが求められるのだと感じました。
「体験的学習」では勝った理由はわからない
この日本の迷走ぶりは、実は大昔からあったということはわかりました。
このことから日本という国は、作戦命令において、戦略が存在しないか、あっても「誤った指標」を追いかけているということがいえます。
一方でアメリカは「空母を最優先で沈める」ということを重点に置き、シンプルながら効果的な目標をかかげ、軍全体の効率、自発性を引き出し、作戦を加速度的に勝利へと結び付けていきました。
ではなぜ、日本は戦略を立てるのがこんなにも下手なのでしょうか?
これは日本軍にもそれから今の日本の企業や組織にもいえることですが、「一点突破・全面展開」という流れを日本人と日本の組織が採用しがちだからです。
戦略の定義という意味で論理ではなく体験的学習による察知で「成功する戦略(新指標)を発見している」構造がありありとしています。
たとえば、アメリカでホンダが「小型で気楽に乗れる」という新指標を偶然発見しましたが、これは目標とする指標が先にあったわけではなく体験的学習の積み重ねによる偶然の発見が生み出したものなのです。
つまり、ホンダを含め、多くの日本企業が、たまたま当たったから、そればかりに注力したという体験型学習により、偶然新戦略を発見する技能にきわめて優れていたということです。
これは日本軍も同じことがいえ、必ずしも戦略が先になくとも勝利することができたこととよく似ていて、論理で証明される「戦略の定義」よりも体験的学習による察知で「成功する戦略(新戦略)を発見している」構造が身に沁みついているといえるのです。
ここで注意すべきは、「成功した定義があいまいなため、売れた商品ばかり販売を続けてしまい、もしくは勝てた戦争の模倣ばかりをしてしまい、文字通り全面展開してしまう」ことです。
これでは、売れた(勝てた)ことの意味を知ることができず、今後、適用すべき範囲を判断することが難しく、結果として過去の成功事例の教条主義におちいりやすい恐れがあるのです。





ホンダの「スーパーカブ」は「バイク革命」を起こしたといえるほどの販売実績を収めましたが、「なぜ売れたか?」といった成功理由を正しく理解できていなければ、その後勝利が劣化していくことを食い止める対策が生まれて来ません。
1980年代までは売れに売れた日本製品も今低迷しているのには、こういった体験型学習による弊害があるといえますね。成功をつくった「戦略の核」となる要素を特定しなければ、日本軍が25の島全てに部隊を駐留させ戦力を落とす結果となる二の舞をくり返したこととよく似ているといえます。
戦略はアップデートが基本だ
まず、最初に言えることは「新しい戦略の前で古い指標は引っくり返る」ということです。つまり、戦略とは「追いかける指標」ということになります。
言うまでもいなく「追いかける指標」は、効果があるものでなければ有効に作用したとはいえません。戦略の優秀性とは「追いかける指標」の有効度そのものなのです。
イノベーション
日本軍に「マッカーサー参謀」と呼ばれた堀栄三(ほり・えいぞう)という人がいます。正確な情報の収集とその分析という過程を軽視する大本営にあって、情報分析によって米軍の侵攻パターンを的確に予測した人物です。
堀参謀は、あるヒントから戦争後半で、日本軍にとって極めて重要なイノベーションの実現に寄与しました。それは堀参謀の著作『大本営参謀の情報戦記』において戦闘のなりゆきを決定する「指標」の見方を知ることができます。
堀参謀はアメリカ軍の戦法研究し「鉄量こそが勝敗を決める」という指標を出しました。
防備を固めた陣地で、自動小銃や大砲による火力を装備した戦闘では、戦場に投入される鉄量によって勝敗が決まる見抜いたのです。
その鉄量戦略を見抜き、戦場の現地視察や考察の上、「鉄量という指標」の影響力を発揮させない形の戦闘法への転換をさせたのです。
たとえばこんなことです。
- 海からの艦砲射撃が効果を発揮しない、島の中央部に防御陣地をつくる
- アメリカ軍への水際攻撃を避ける
- 基地の防護壁は、アメリカの戦艦の主砲に耐えるコンクリート厚2.5メートル
これを実行させ、アメリカ軍の「三日で陥落できる」予想を超え、二カ月近くも耐えることができたということです。
これをビジネス的な視点に置き換えるとこんな感じです。
- ステップ① 戦場の勝敗を支配している「既存の指標」を発見する
- ステップ② 敵が使いこなしている指標を「無効化」する
- ステップ③ 支配的だった指標を凌駕する「新たな指標」で戦う
これが「イノベーションを創造する3ステップ」といって、アップルの創業者スティーブ・ジョブズが生涯を通じて行い続けたビジネス上の変革にピタリと一致するものであります。
もともとこの考え方は戦時中のアメリカ軍も実行していた作戦に取り入れられています。
そもそも当時の日本軍が誇った零型戦闘機(以下、零戦)は世界一の旋回性能とされ、戦闘機同士の1対1の対決では、アメリカのF4F戦闘機では勝てなかったのです。
そこで、零戦の性能を「無効化」する作戦を実行したのです。
- 単機戦闘ではなく、❝機数の多さ❞という指標「サッチ・ウィーブ戦法」
- 目視という従来の指標を超えた❝距離❞の指標「レーダーによる迎撃」
サッチ・ウィーブ戦法
ステップ① 「既存の指標」の発見
零戦はアメリカ軍のF4Fよりも旋回能力が高く、単機では勝てませんでした。そこで、アメリカ軍は無傷の零戦を鹵獲(ろかく)しテスト飛行をくり返したことでゼロ戦が強いのは「旋回能力」という指標を発見したのです。
ステップ② 敵の指標の「無効化」
そこで、アメリカ軍が取った対策が、F4Fの二機一組で、対峙するという作戦です。旋回した零戦がF4Fの後ろを取った際には、もう一機のF4Fが零戦を迎撃するポイントに素早く入るようにしました。
この作戦により、零戦の優れた「旋回性能」は無効化されたということです。
ステップ③ 「新たな指標」戦う
一時、零戦の優れた旋回性能がアメリカ軍戦闘機を悩ませましたが、二機を一組とする「連携性」という新しい指標により、アメリカ軍が空の戦いを完全に取り戻したということです。
レーダーによる迎撃
ステップ① 「既存の指標」の発見
レーダーが本格的に導入される前は、敵を探すため偵察機を飛ばして、相手を発見すると無線連絡して味方機を出撃させていました。これにはパイロットを含めた「偵察機の活躍」が重要だったのです。
敵を先に攻撃する態勢をとれた側が優位に立つという指標です。
ステップ② 敵の指標の「無効化」
偵察機の活躍では、日本軍が先にアメリカ軍を発見することもあり、一方的な奇襲としてアメリカ軍に攻撃を浴びせていたのです。実際にマリアナ沖海戦では日本の偵察機が敵艦を先に発見しているのです。
ところが、アメリカ軍のレーダーにより、200キロ先から日本の戦闘機群は発見され、アメリカ軍機に準備万端で待ち構えられ、一方的に攻撃を受け敗退します。
ステップ③ 「新たな指標」で戦う
レーダーの出現により、「偵察機で敵艦を先に発見する」という指標は完全に消滅しました。
なぜなら、万が一、日本軍の偵察機がアメリカ軍を先に発見したとしても、攻撃隊は敵艦にたどり着くはるか手前でレーダーに発見され、待ち伏せされ殲滅される結果となるからです。
新しい「レーダーの性能」という指標が戦闘を支配することになったのです。



これらを踏まえて、一連のイノベーションの実現は、優位である敵が持っている指標を見抜き、その指標を無効化する方法を探し、支配的だった指標を超える新たな指標で戦うことが重要ということになります。


型の伝承よりも大事なこと
まず日本人というのは、過去の出来事から「型の伝承」を行い、「どうしてそれをやるべきか?」という点においては考察しない民族です。つまり過去の成功体験を「単なる形式」としてだけ継承しているだけなのです。
当時なぜ成功をおさめることができたか、という「勝利の本質」がわかっていないということです。
これは古来から、本質を議論する能力ではなく、単なる方の伝承で教育を行った日本特有の弊害といえるものです。ですので日本軍にしても日本の企業にしても乗り越えられない壁というのは、実は視点の固定化が生み出しているといえるのです。
日本軍は戦局の転換で大混乱におちいっても、正しい戦略策定をせずに、やみくもに「同じ行動」をくり返して敗北を重ねました。
日本企業は、先ほどもあげたとおり、一度成功したら、それを検証することもなく、売れた商品ばかり販売を続けてしまい全面展開してしまうということが見て取れます。
では、どうすればいいかということですが、本来戦場の中で新たに発生する戦略(新指標)や、敵軍側の攻勢の中にある指標としての戦略を見抜き、検討する能力が必要なのです。でなければ、刻々と変わる状況を乗り越えることはできないでしょう。



ここまでの話で、日本軍とアメリカ軍の強みの違いが、第二次世界大戦の流れと勝敗を決定したことがわかりました。
「型の伝承」のみを行う日本の組織が「勝利の本質」を伝承できていないことで、強みを劣化させ、しかも矮小化させて、、、それを今に伝えているから成功をつかむことが難しくなっているのです。
餅は餅屋
実は先ほど話題に出た「レーダー」は、日本の科学者も開発していたのです。『電子兵器「カミカゼ」を制す』という本では日米のレーダー開発の経緯を比較しています。
しかも性能的にアメリカのレーダーよりも優れていたそうです。ですが、実際の戦争では使われることはなかったのです。それはなぜかというと、日本軍部・軍人のレーダー兵器に対する「理解のなさ」と「徹底的な軽視」があったからです。
軍部が考えていたことはこんなことです。
- 電波を出して敵を見つけて、その敵を攻撃するなんてことは起こりえない
- ほとんどの軍人はレーダーの発想を「バカげた戦い方である」と考えていた
- 制作したレーダーに対して「こんなものは兵器として使えない」と難癖をつける
- 艦政本部の兵器管掌をする責任者まで「レーダーなんていらない」という始末
科学者たちの懸命なレーダー開発をよそに、海軍軍人の多くはレーダー兵器を「守りの兵器」「使えない兵器」と小馬鹿にしていて、軍人側が価値観を変えなかったことで日本人科学者たちをきわめて厳しい状態に追い込んでしまいました。
「餅は餅屋」という言葉がありますが、兵器開発は専門研究している科学者と手を携え、軍も理解を示していたら 戦況は変わっていたのではないかと思うと悔やまれますよね。



一方、アメリカはレーダーを、部隊を指揮するための主要兵器と位置付けていて、新兵器の機能を十分に把握し、戦場で最大限効果を発揮できるように戦術を立てました。
これって、戦国時代に新兵器だった火縄銃の重要性を見出した織田信長が天下を手に入れるチャンスを得たのと似ていますよね。
リーダーとして心得ること
日米の軍でリーダーと呼ばれている人たちの特徴の違いをわかりやすくいうと、このような感じです。
日本軍の上層部は、自分たちの理解していない現場を蔑視し、現場の優秀な人間の意見を参照しなかったのです。それに引き換え、アメリカ軍は現場に優秀な人材の自主性・独自性を最大限活用し、情報交換が活発だったそうです。


これでは、結果的に差ができてしまうのは当たり前といえますね。
ではリーダーとして、心得ておくことを本書から学んでみます。
チャンスを潰すな
チャンスというものは誰でもが喉から手が出るほど欲しいものです。
しかし、本書を読んでいくうちに自らチャンスを潰していく人が一定以上いるように思えます。とくにリーダーとして方向性を決定する権限のある人がそのチャンスを潰してしまうケースが多分にあるのです。
そのチャンスを潰す人の三つの特徴が紹介されています。
チャンスを潰す人の三つの特徴
- 自分が信じたいことを補強してくれる事実だけを見る
- 他人の能力を信じず、理解する姿勢がない
- 階級の上下を超えて、他者の視点を活用することを知らない
ノモンハン事件、ミッドウェー作戦などは、現実を厳しく直視せず、むしろ願望を固く信じ込む態度、海軍の暗号が解読されているのにもかかわらず、「大丈夫」の一点張りという大失態。
ガダルカナルでは、上層部と意見対立した川口清健(かわぐち・きよたけ)少将を罷免し、インパールや沖縄戦で、合理的な思考から作戦に対しての指摘や問題点をことごとく無視していったそうです。
これはあきらかに人害です。このような重大な人的問題は、勝利を逃すだけではなく、避けることができたはずの大敗北を生み出すなど、たびたび日米戦闘の勝敗を分けることになりました。



これは現代でも言えることで、ワンマンな社長がしだいに孤立し、経営においてもうまくいくものがうまくいかなくなる典型だと思いますね。
リーダーとは「新たな指標」見抜ける人
まず前提として、優れたリーダーとは組織にとって「最善の結果」を導ける人です。
アイデアやイノベーションは、環境さえ整えば、組織のあらゆる階層から生まれます。「上」が考えていることが正しいという硬直的な権威主義は、直面する問題への突破・解決力を大きく損ないます。
新たな指標としての戦略は、現場から生まれることが多く、リーダーはその価値を見抜く必要があるのです。
たとえば、2兆1000億円という巨額の負債を抱えた日産自動車を経営危機から救った 最高執行責任者カルロス・ゴーン氏は、「日産リバイバルプラン」を掲げ、社内の各部門中間管理職でチームをつくり、必要とする提案を吸い上げたのです。
チームのリーダーとなった9人は、ゴーン氏の強い熱意と本気を感じ、社内の人間を集めて何度もミーティングを重ね、リバイバルプランの骨子となるアイデア、改善提案を全社から懸命に集めてきたそうです。
あの奇跡のV字回復を生んだプランの骨子は、社内の知恵の結晶で、ゴーン氏はアイデアに対して「実行の方向性を与える」役割を果たしました。
つまりは、もともと日産という会社は優秀な能力を内に秘め、ゴーン氏という優秀なリーダーが柔軟に組織の全能力を引き出したことで大躍進が成し遂げられたということです。



これって、先日取り上げた書籍『嫌われた監督』でいう落合博満氏と重なって見えますね。
落合氏も中日ドラゴンズの戦力分析をし、その能力を十分に引き出し最強軍団を作り上げたといっても過言ではないからです。


優れたリーダーは「勝利の条件」に最大の注意を払う
どの組織にも言えることですが、最終的な方向性を決めるのはリーダーです。そのリーダーの決定が間違っていたら成功に導くことはできません。
リーダーが「こうすれば勝てる」と舵を切り部隊(部下)を最前線に送り込んでも勝つことができない場合、現場では混乱と無力感が生まれます。
その現状を理解できないリーダーは、決断した「間違った勝利の条件」というものを撤回することもなく、「社員が努力しないから、頑張らないから成果が出ない」と言いがちです。
「勝利の条件」とは、原因と結果という意味で因果関係と表現することもできますが、明確な現象に適応されるものもあれば、ほとんど意識していないレベルで決めているものもあります。
優れたリーダーは、「正しい勝利の条件」としての因果関係に、繊細かつ最大限の注意を払い、常に「勝利の条件」は、本当に正しく機能しているかに注力すべきなのです。



わたしも日々、いろんな会社の方たちと接することがありますが、しっかりした会社は一般の社員でも経営者的な考えを持つ人が多いように思います。
「社長がやれというからやっている」というようなことはなく、決して押し付けではない個人の意思を尊重し、社員みんなが同じ方向性でスクラムを組んでいるように見えるのです。
リーダーというものは、「勝利の条件」をしっかり把握し、部下にその考えを浸透できる人であるべきだなと感じました。
『「超」入門 失敗の本質』 の感想・まとめ
すばらしい気づきをもたらす『失敗の本質』は、日本人なら必ず読むべき本ではありますが、戦時中の時代背景をよく知らない世代の人では、あまりピンとこないのではないかと思います。
そこで、この『「超」入門 失敗の本質』を組み合わせることで、内容を腹落ちするまで理解することができると思います。
これからの時代は、「想定外」の出来事がかなりな数で、頻繁に起きると思いますが、過去に学ぶべきところはしっかりと抑え、新たな指標を持ち、試行錯誤しながらも前に進んでいく意識が必要ですね。
そういった意味で、教訓というか「反面教師」としての意味合いを持つ、日本軍の迷走ぶりはわれわれに大切なことを教えてくれているのではないでしょうか?
ですので、この『失敗の本質』と『「超」入門 失敗の本質』はかなりなオススメ書籍であると自信を持って言えます。ぜひご一読ください。




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