
こんにちはコウカワシンです。
今回は吉井理人(よしい・まさと)さんの著書『最高のコーチは、教えない』から学ばせていただきます。
『最高のコーチは、教えない。』はどんな本?


『最高のコーチは、教えない』はズバリ!「人材育成マニュアル」です。
本書はこのような本
著者の吉井理人(よしい・まさと)さんは、日本のプロ野球や米大リーグで活躍された元野球選手であり、現役を終えられてからは コーチとして プロの現役投手を育てられています。
そんな吉井さんが理想とする「コーチング」とは、相手に対し教えるのではなく、自分の頭で考えるように質問し、コミュニケーションをとる技術を指します。
これは、スポーツの世界にのみならず、一般社会でも必要なことだと思います。
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本書は誰におすすめか?
本書はこのような人におすすめです。
『最高のコーチは、教えない』がおすすめな人
- コーチングを学びたい人
- 指導者
- 部下を抱える管理職
『最高のコーチは、教えない』 の要点は?


吉井さんは、現役時代に日米のプロ野球で活躍され、現役引退後はコーチとして手腕を発揮し選手の能力を引き上げ、担当したチームのリーグ優勝、日本一に貢献されてきました。
そのような吉井さんが、掲げる選手育成は「選手主体」であることです。
コーチの経験や理論を選手に押し付けるのではなく、一人ひとり、その選手の能力や個性に合った指導こそが個々の力を高め、合わせてチームの強化につながるということです。
選手が自らの能力を伸ばし実力を開花させるのに必要な事は「自ら考えること」です。実はこういったことが案外難しくて、それをできる選手が少ないといいます。



そこで、わたしの独断と偏見で、吉井さんが考えるコーチとしての心得や基本理論、最高の結果を出すためのルールを取り上げさせていただきます。
コーチは教えてはいけない
「コーチは教えてなんぼ」とふつうなら思いますよね。でも、指導なんて名ばかりの何の理由づけもない強制的に押し付けられたものだったらどうでしょうか?
吉井さんご自身の経験とコーチングを学んだことから導き出した答えが「コーチは教えなくていい」なのです。
そしてコーチの仕事というのは「教えることではなく考えさせること」だともいいます。
教えてはいけない理由を列記しますと、
- 相手と自分の経験・常識・感覚が全く違う
- 「上から力ずく」のコミュニケーションがモチベーションを奪う
- 「余計なひと言」が集中力を奪う
- 「悪いアドバイス」がパフォーマンスを低下させる
- 一方的な指導方針が、現場を混乱させる
ということです。
中でも「相手と自分の経験・常識・感覚が全く違う」というのは、大きな問題ではないでしょうか。
たとえば吉井さんは、高卒ルーキーのころ、コーチからの嫌な指導方法をたくさん経験されました。コーチと自分の感覚が違うのに、その差異を話し合う機会も持たずに、強制的にやらされる指導法に辟易したそうです。
現状の課題を克服するために必要なトレーニングについて両者で話し合えば、納得いく練習に取り組めるのに選手の感覚を無視して、自分の経験を押しつけてくるコーチというものは吉井さんでなくても嫌なものです。
選手にしてみても納得できないままに強制されたら、目的を見失ってトレーニングの効果も薄れてしまいますしやる気も出ません。それはすなわち成長のチャンスを失ってしまうことにもつながりかねません。
これではコーチの仕事として失格ですね。そこで理想となる考え方が「選手が自分で考え、課題を設定し、自分自身の能力を高める」ということなのです。
そこでコーチとしてまずやるべきなのが「相手を観察し、話し合うことから始める」です。
具体的には、
- まずは観察する
- もし違うのであれば論理的に説明する
- 相手が納得するまで話し合う
といったことが大切です。
それから、コーチングの基本は選手に主体があることです。コーチが強い言葉を使いすぎると、上下関係が強調され、味方であるはずのコーチが選手にプレッシャーをかけることになってしまいます。それは注意するべきですね。



コーチと選手、一般社会に例えれば、上司と部下といった構図になるのでしょう。こういった場合、部下への指導として上下関係が強調してしまっては、部下の態度が委縮して変なプレッシャーを与えかねません。
節度ある上下関係は必要ですが、部下の能力を伸ばそうと思うなら、強い言葉を使わず上記の3つの視点で部下が納得するまで対応するのが重要ということですね。
コーチングの基本理論と実践
コーチングの基本理論
- 主体は選手。個が伸びれば組織は強くなる
- 専門的な技術・知識を教える「指導行動」
- 心理的・社会的な成長を促す「育成行動」
- 成長を促す「課題の見つけ方」を指導する
- 「振り返り」で課題設定の正しさを常に検証する
- パフォーマンスを最優先する「プロ意識」を植えつける
- 相手の性格に応じてコーチングを変える四つのステージで指導方法を変える「PMモデル」
吉井さんのコーチング目的は「個を伸ばす」ことです。
なぜなら、「個」が育てば結果的に組織が強くなるからです。これはビジネスの世界でもいえることですね。個人の能力を伸ばしつつ、同時にうまく組織としてまとまるように導けばどのような状況でも強みになるものです。
そして、その「個を伸ばす」ために、必要なコーチングが、
- 指導行動
- 育成行動
です。
指導行動
指導行動とは、選手個人のパフォーマンスを上げるための技術的なスキルを教えることです。
たとえば、「ピッチングフォームを教える」「トレーニングのやり方を教える」「配球のやり方を教える」「マウンド上におけるメンタルのつくり方を教える」などです。
そこで、重要なのが、
個々人に合わせたオーダーメイドで指導行動を実践する
ということです。
なぜかというと、人によって経験値や能力が違うからです。ピッチングでいえば、そのピッチャーが持っている球種によって配球が変わってくるし、メンタル面も、個人の性格によってかなり違うからです。
したがって、完全に一人ひとりに対してオーダーメイドで対応していくのが、指導行動の本質であるということです。
育成行動
育成行動とは、技術ではなく心理的、あるいは社会的な面において個人の成長を促す行動です。
心理面で重要なのはモチベーションです。個人のモチベーションの高め方には、さまざまな方法があります。コーチがやるべき育成行動とは、
小さな課題を設定し、成長のスパイラルをつくる
です。これにより、小さな成功を継続的に積み上げていくことができます。
課題をクリアすることで達成感が得られ、また新たなモチベーションにつながり次のステップに上がる、より高度な課題を設定する動機づけに直結し、成長のスパイラルに入りやすいからです。
課題設定のポイントは、課題を解決するために必要な要素が、すべて自分でコントロールできるもので構成されていることです。つまり予測不能な条件が入ってくる課題を設定してはいけないのです。
選手が自分でコントロールすることが可能で、失敗してもやり直しがきくような課題を設定し、モチベーションを高めるような指導をするのが、コーチが行う育成行動の本当の役割なのです。
コーチングを実践する土台
まず、吉井さんがコーチングを実践する土台としているのが、
- 観察(相手のことを知る)
- 質問(相手に話をさせる)
- 代行(相手になったつもりで考える)
です。
観察
まず、「観察」。選手の特徴を徹底的にリサーチします。ポイントとして、あらかじめ選手の特徴をしっかりと把握しておくことです。たとえば、
- 技術的なこと
- 本人の性格
- 食生活
- 睡眠
ということを押さえておけば観察の精度が上がります。
そして大事なことが、選手本人に直接聞いてはいけないということです。周囲の選手やスタッフなどにそれとなく聞くということです。他愛もない会話から選手の特徴を拾い出し真の姿を把握していくのです。
質問
「質問」をする。これはコーチが選手に「何をやりたいか」「どう思っているのか」などを尋ねます。
質問の目的とは、選手に「自己客観視」させることと、選手とコーチに「信頼関係の構築」をうながすことです。そのとき大事なことが質問以外は黙って選手の話す言葉に耳を傾けるです。
自分を客観視できれば、自分のいいところと悪いところがしっかり見えてきます。そして選手自身が自分のことを言語化できるようになるというメリットがあるのです。
なぜ言語化することが必要かというと自分のパフォーマンスをうまく言語化できる選手は好不調の波が小さいからです。
人は本来、自分の姿はわかっていません。でも、わかっていなければ自分の状態を言語化することはできないものです。他人から指摘されたことを自分で納得し、修正し、自分の言葉で説明できるようにならないと自分のものにならないということです。
吉井さんは、選手に対し、しつこいぐらい質問を繰り返し、言語化する癖をつけるしかないといいます。それと同時に「日記をつけること」もすすめられています。
日記は、自分自身を振り返り言語化するにはもってこいだからです。ただし、自分だけがわかればいい書き方ではなく、誰が読んでもわかるような日記にしなくては言語化の訓練にはなりません。
そして選手が言語化した内容をコーチは肯定すべきだということです。肯定され続けると、選手はコーチを信頼し、コーチの指示を聞く準備ができるのです。
代行
最後にその選手の立場になって「代行」するという作業をするのです。代行とは、指導する選手にはどのような方法が合うか、どう伝えればいいか、その選手になりきって考えるということです。
このときに大事なのが、「自分だったらこうする」と考えるのではなく、視点を変えて「その選手だったらどうするか」と考えていくことです。
代行で大事なのは、観察と質問、事故客観視と信頼関係を磨いておくことです。なぜなら選手が言語化した感覚と、コーチの感覚が限りなく近い状態をつくっておかないと、ギャップばかりがどんどん大きくなるからです。



コーチングの基本理論と実践。
とても大事なことだと思います。うまくやるには選手のアップデートだけでなくコーチ自身もアップデートしないといけないということですね。
学ばないコーチはコーチングをする資格がないといえるでしょう。
同じことがビジネスの世界でも言えると思います。部下のモチベーションを高め能力を伸ばしてやりたいのなら、コーチングの基本理論にのっとってケースバイケースで学習すべきですね。
最高の結果を出すコーチの9つのルール
最後にチームや組織として最高の結果を出すために、コーチが「コーチング」以外でやるべきこと、気をつけた方がいいいことをあげられています。
それが「最高の結果を出すコーチの9つのルール」なのです。
最高の結果を出すコーチの9つのルール
- 最高の能力を発揮できるコンディションをつくる
- 感情をコントロールし、態度に表さない
- 周りが見ていることを自覚させる
- 落ち込んだときは、すぐに切り替えさせる
- 上からの意見をどう現場のメンバーに伝えるべきか考える
- 現場メンバーの的確な情報を上層部に伝える
- 目先の結果だけではなく、大きな目標を設定させる
- メンバーとは適切な距離感を持って接する
- 「仕事ができて、人間としても尊敬させる」人を育てる
1. 最高の能力を発揮できるコンディションをつくる
これはスポーツに限らず、どの分野にでも言えることですが、コンディションが良くなければ最高のパフォーマンスは発揮できないということです。
コンディショニングでまず大事なのは身体です。
肉体が健康な状態にないと、出来ないことが数多く出てきます。そしてその肉体の状態は、精神面にも大きく影響します。気分がすぐれなければパフォーマンスの質が下がるのは当たり前といえますね。
吉井さんの経験から
- トレーニング
- 食事
- 休養
が、体のコンディションを考えるうえで、三つの基本となるそうです。
プロだから、最高のパフォーマンスを発揮するために食事に気をつかうのは当たり前として、トレーニングにも余念がないものです。
ですが、技術的に未熟な選手ほど不安を払しょくしようとして休まずに練習する傾向があります。しかし休養をおろそかににする選手は後を絶たず、吉井さんに言わせれば「日本人は休養の取り方が上手ではない」とのことです。
よく「寝る間を惜しんで」といいますが、それでは身体にも疲労がたまり故障の原因にもなります。そしてせっかくのトレーニング効果を頭が整理することができないそうです。
そうならないようにするには、ある程度の練習をしたら、ある程度の休養を取るしかありません。人間の身体は「休んでいる間、つまり考えていない間に身体の動かし方を整理してくれる」という効果を信じることです。
そこで大事なことが
適切な睡眠を取り、健全な生活を送る
ということです。
2. 感情をコントロールし、態度に表さない
「コーチと選手」といったら、師弟関係という風に見られがちですが、吉井さんはそうではないといいます。
一般常識では、社会勢力上コーチが上で選手が下というように見られ、そのうえ偉そうな態度をとれば、社会勢力の差はさらに広がります。そうなると選手はコーチに近寄ってきません。
吉井さんはむしろ、選手よりコーチが「下」だと思って、選手に接しているそうです。
そして選手に見せてはいけない態度として、
- 試合中などに威圧的な表情を見せる
- 選手の失敗に落胆や怒りの表情を見せる
- ネガティブな態度を見せる
を、あげられ選手との信頼関係を保つことを大事にされています。選手は、コーチのそういうところを見ています。そしてそれが、選手に余計なプレッシャーを与えているのです。
「指導する立場の人は、自分の感情をコントロールし、できるだけ表情を変えないようにしてほしい。むしろ、それができないコーチは、指導者の資格はない」とも言われています。
ここにも「選手主体」という考え方が浸透しているということですね。
3. 周りが見ていることを自覚させる
プロ野球選手になったばかりの選手は周りから見られている意識がないと言います。これは、一般の社会人になったばかりの人にも言えることですね。
どの分野でもプロフェッショナルとしての立ち振る舞いを身につける必要があるということです。
吉井さんが選手によく言うことに「ユニフォームを着ているときは、感情をむき出しで戦ってもいいけど、ユニフォームを脱いだら、その辺をぶらぶらするときも英国紳士のように振る舞えよ」があります。
たしかに社会人としての自覚を持つと同時に、周囲に見られていると思うと、何をするときでも手抜きをせず、しっかりとやるという効果を引き出すためです。
そのために心がけることとして、
- 小さな習慣から継続させてみる
- チーム・組織は「一人ひとりの集合体」だと認識する
が必要ということになります。
❝小さな習慣から継続させてみる❞では、吉井さん自身が継続させる能力に欠けているという自覚があったため現役時代にやったこととして読みかけの本をすべて読み切ることから始められたそうです。
こうしたことで、最後までやりきる癖をつけることができ、努力を持続できるようになったとのことです。
❝チーム・組織は「一人ひとりの集合体」だと認識する❞では、プロフェッショナルは組織やチームに属していても、基本的には一人です。
つまり一人ということは自分で自分の看板を背負っているということに他なりません。
一人ひとりの看板の集合体が組織でありチームなのだから、自分がしっかりすれば、結果として組織やチームの看板も守れると考えればいいということです。
これはプロ野球界だけではなく社会全般にも言えることであり、自分が何事も手を抜かず、しっかりやることはすべて自分のためなのだから、自分の行動が結果的に組織のやチームを代表しているという意識を持つべきです。
吉井さんは「チームのため」というある意味、自己犠牲ともいえるこの言葉を好みません。チームのためではなく、個人のプレーのバリエーションの一つとして、自己犠牲のプレーができるというだけだということです。
海外のチームスポーツでは❝ケミストリー❞という化学反応を引き起こす意識が強くあるそうです。
個と個が交じり合うことで、別の何かが生まれることを指します。あくまで個人がベースとなり、その強みが交じり合うことでチームに変化がをもたらし、それが勝利につながるという考え方です。
まずは組織やチームの色が立ち、その色に個人が染まることをチームプレーとするという日本ならではのチーム組織事情からすると、個人の個性を押し殺してしまい化学反応は起こりません。
そこで、プロフェッショナルとして個人の強みに色をつけることに必死になる、色のついた個人を組み合わせて化学反応を起こすのがコーチの仕事だと吉井さんは心がけられているのです。
コーチは、個人がそれぞれに違う方向へ行くこと、みんなとは違う色になることを止めないことがやるべきことだし、それが仕事なのだという信念を持たれているのです。
吉井さんがお手本にしているのが、師ともいえる元近鉄・オリックス監督だった仰木彬(おおぎあきら)さんです。仰木さんのもとで育った選手は、個人の色がよく出ています。
あのイチロー選手や、同時期に売り出されたパンチ佐藤選手は良い例ですよね。
ですが、その色は無制限に、無遠慮につけていいわけではなく、ある一定の規律を持たないと、化学反応が導かれる色になりません。その枠を作るのもコーチの大事な仕事の一つであります。
4. 落ち込んだときは、すぐに切り替えさせる
野球に限らず、何かの勝負をしているときに「負ける」ことは多数の方が経験されているのではないでしょうか。そのとき、悔しい感情がわき上がるのは当然です。
その悔しい感情を抑え込んでじっと耐えるのが、日本人の美徳としてあるのは確かですが、悔しい感情はその場で爆発させ、スッキリさせたうえで次のステージに向かうと良いと吉井さんは言います。
とくにピッチャーの場合は、打ち込まれて交代させられたら、絶対に悔しいはずで、気分も落ち込んでしまいます。ですが、その悔しさや気分の落ち込みを引きずっていたら、いつまでもポジティブへのスイッチが切り替わりません。
選手も含めて、我々一般人に対して言えることは「スイッチを切り替えること」です。
吉井さんの経験では、ノックアウトされたときにダッグアウトの裏に行き大暴れしてスイッチを切り替えたそうです。大暴れしたところで悔しさが消えるわけではないけど、気分を切り替える下地ができたとのことです。
次の登板に向かってメンタルを整えるほうが精神衛生上、落ち込んだ状態を引っ張るよりも、はるかに健全だということです。
大暴れといっても限度があって、やってはいけないのがケガをすることです。もし壁などを殴ってケガでもしたら次の登板はおろか選手生命を断たれる恐れがあるからです。
そのためにメジャーでのコーチから受けた「悔しいときは叫べ」です。大声で叫んでも、せいぜい三日ぐらいのどが痛いだけで済むからとのこと。コーチはメンタル面でも選手を支えなければいけないということですね。
たしかにコーチのこういったアドバイスは必要ですが、メンタルを整える術は選手によって違います。ですので、選手に対して気を配っているのが、
- 自分に合ったストレス解消の方法を見つけさせる
- 気持が切り替わるまではチームに入れなくてもいい
- 小さな課題のクリアが、メンタルも強くする
といった取り組みであるということです。
コーチは、選手のメンタルを解きほぐし、再生させるコーチングをするべきで、選手自身に小さな課題を設定させ、少しずつクリアし続ける循環に変え、いずれは自分で課題解決ができるようにしていくべきといわれています。
5. 上からの意見をどう現場のメンバーに伝えるべきか考える
吉井さんのコーチングスタイルは「選手主体」です。ですので、監督の采配が選手を混乱させる場面に直面したとき、選手を守る意見を監督に具申するといいます。
つまり、部下を守ろうと中間管理職が社長に対し反逆するのと同じということですね。コーチが監督の采配に疑問も持たずに、唯々諾々と従っているだけでは、選手のモチベーションが下がってしますし、選手の心の支えになりません。
選手にとってマイナスになる可能性がある指示には疑問を投げかける。選手にとってプラスになる采配をしてくれないときは、最善の策を進言するといったようなことはコーチとして義務だと吉井さんは言います。
しかし、チームの責任を負うのは監督です。すべての采配を監督が行うのは当然のことです。そのことで選手がやりにくい場面となったとき、コーチが適切な進言をしないと、いつまでたっても選手と監督の溝は埋まらないということです。
上と現場をうまくつなげるベストな方法について考えた上で、覚悟を持って発言していかなくてはならないということです。つまりはコーチが監督と選手の間に入りクッションのような役割をもつということですね。
ビジネスシーンなどで、上司が言ったことを、そのまま部下に伝えてしまうケースがあります。
現場レベルで部下が考えていることと、マネジメントの立場で全体を見て上司が考えていることの間に「ずれ」が生じ、上司の無理解に部下が腹を立てるということはよくあるシーンですよね。
その齟齬を翻訳して埋めるのがコーチの重要な役割だとし、翻訳するときには、直訳ではコーチの存在が意味を持ちません。ある程度は腹をくくり「意訳」する覚悟も必要だということです。
6. 現場メンバーの的確な情報を上層部に伝える
監督が思い描く選手の特徴と、実際の特徴が違うということはあります。常に現場を見ているコーチと、全体を把握する監督との間にズレがあるのは、ある意味しかたがありません。
そんなときコーチは、どんなにネガティブな情報でもしっかり伝えるべきだといいます。
ある例として、先発タイプではない投手に先発転向をさせようとした監督に「先発させるとその投手の持ち味が消えてしまう」とかなり強い口調で訴えたことがあるそうです。
しかし、何の根拠も提示せず自分の勘や経験だけで進言しても監督を納得させられるはずはありません。ましてや選手の前で監督とコーチがケンカをする姿を絶対に見られてはいけないともいいます。
それは誰が見ても、上司に部下がたてついている構図にしか見えないからです。
そこで吉井さんは、客観的なデータも集めて冷静に提案することにされました。データから論理的な理由を導き出し、先発ではなくリリーバーとして起用することを進言することにしたのです。
選手のサポート、データの収集、メンタルの調整など、コーチの仕事は多岐にわたりますが、気をつけなければいけないのは、コーチとしての興味、関心に選手を巻き込んではいけないということです。
やってみたら選手にとって新たな発見があったり、違う面で選手の才能が開花しそうなプラス面が期待できるものならいいけど。マイナスの結果にしかならないことはやらせてはならないとのことです。
なぜなら、それが選手の野球人生を壊しかねないからです。
だから、監督が覚悟もなしに選手の起用を変更する際、選手自身に迷惑がかかる指示だと思ったときには強く反対し、指導するプロセスで把握した選手のデータはすべて伝達する必要性を説かれています。
選手の情報は、チームの共有財産。コーチが独占しておくべきものではなく、いざというときには選手を守る盾として、それから選手自身の可能性を広げる武器として活用すべきものなのでしょうね。
7. 目先の結果だけではなく、大きな目標を設定させる
プロ野球選手は成果がすべて、一年一年が勝負の年です。だから、選手は目の前の結果を欲しがります。それが評価にに直結するのだから、やむを得ません。
しかし吉井さんは、コーチとしては選手の人生も考え、将来にわたって安定して任せられる息の長い選手になってほしいと考えています。
器用な選手は、目先の結果を得るために、その選手に合っていないピッチングでも勝ってしまいます。当然、結果が出ると修正するのは難しくなります。
プロに入って短期間だけすごいピッチングをしても、それで終わったらプロとは呼べません。一シーズン通して安定した成績をあげる活躍をして、それを何年にもわたって続けてはじめてプロ野球選手としての評価が得られるということです。
それを 選手に どのように伝え、納得させ、長く活躍するためにどのようなことをすればいいかを教えるのががコーチの仕事であるということです。
これは、プロスポーツだけに限らず一般社会でも言えることです。たとえば営業職でも、一ヵ月のノルマだったら達成できる人は少なくないけど、何年にもわたってノルマを達成し続けられる人はほとんどいません。
だからこそそれができる人は「エース」という称号を与えらえ、その人は長く活躍するための努力をされているのだと思います。
ですので、コーチや管理職といった職にある人は、プロとして長く活躍できる方法を指導する必要があります。そこで気をつけるべきなのが、
アドバイスするタイミングを見逃さない
ということです。
吉井さんはこのタイミングにこだわります。
一つの方法として「いいとき、好調のときに指導すること」です。成果をあげて気分がいいときなどを見計らって「これを続けていくにはどうしたらいいと思う?」と投げかければ、選手の耳にも入りやすいでしょう。
そして、どん底に落ちたときにも効果はあります。状態的に最悪なときには、上がるためのアドバイスは喉から手が出るほどほしいものですからね。
それ以外の中途半端な状態では、聞く耳を持ってくれません。聞いているようでも、頭の中に残らないといいます。ですので、選手(部下)の状態をよく観察して、タイミングを逃さないように細心の注意を払う必要があるということです。
8. メンバーとは適切な距離感を持って接する
選手とコーチは、どれほどの信頼関係を築けても、どんなことも言い合える間柄になったとしても、友だちにはなれないと吉井さんは言います。
両者の間柄には、社会的勢力による力関係があるからです。そしてその「のりしろ」を空けておかないと、言わなくてはいけないことが言えなくなってしまい、結果それは選手にとってマイナスになるのです。
反対に、離れすぎても信頼関係が築きにくくなります。
つまり、「近づきすぎず、離れすぎず、適度な距離感で接しないといけない」ということです。これは、一般社会でも上司と部下の関係などもそうですよね。
具体的に吉井さんが気をつけられているのは、球場外での関わり方です。まず、個人的に選手と食事には行かない、もし行くときにはピッチャー陣を全員連れていくように気をつかうというものです。
球場の中においても、選手と二人だけで話すときも、それほど時間をかけることなく、要件を簡潔に話して終えるということにも気を配られています。
そして、根本的に大事なのが、
互いが互いを尊敬し合う関係を築く
ということです。それは、多かれ少なかれ人間関係の強弱はありますし、日本の場合は年齢によって上下関係が構築されるのは避けようがないからです。
そして、コーチだからといって選手に乱暴な言葉を使うべきではない、互いに尊敬し、尊敬する気持があれば、言葉は自然と出てくる、そこには「選手主体」にして指導するコーチングが重要となってくるのです。
そのために最適な距離感を見つけることがコーチにとって大事な仕事の一つといわれています。
9. 「仕事ができて、人間としても尊敬させる」人を育てる
ただ単に野球だけがうまくても人間的に問題のある人は尊敬されません。それは一般の社会でもいえることです。
メジャーリーグの一流選手は、社会的にも尊敬される選手が多いそうです。しかし、日本のプロ野球では尊敬される選手が圧倒的に少ないと手厳しい評価を吉井さんはします。
これは原因としてメディアの体質の違いがあるからだとされています。
日本のメディアは、子どもたちの夢を壊すようなゴシップを取り上げたり、野球選手を茶化したりするような体質があります。それに対し、アメリカのメディアは厳しいながらも、できた人間の行動や考えをうまく伝えています。
その根底にあるのは子どもたちの夢を壊したくないという思いなのです。
ですので、メジャーリーグの選手もボランティア活動や慈善事業には積極的に取り組んでいるし、ユニフォームを着ていないときでも紳士のように振る舞うということです。
最近では、サッカーなどに押されて野球をやる少年が少なくなってきているそうです。
現実問題として野球界の衰退は深刻な状況なので吉井さんは、オフに招待される少年野球教室にはノーギャラ、ボランティアで参加し自分が持つ野球の技術を少年たちに還元してほしいという願いがあるのです。
積極的にそういう活動を続けていけば、おのずと世間に評価されるだろうし、有名選手が指導しに来てくれてすごいプレーをみせてくれれば、憧れもされます。結果、それが自分のためにもなるし、野球界のためにもなるのです。
ここで感じるのは、自分や選手たちだけでなく、野球界全体を良くしていこうという姿勢です。これを自分らの分野に当てはめてみれば、必ずどの業界でも通用する考えではないでしょうか?
「尊敬される」「後進を育てる」といったことは、地味ではあるけど必ず自分にとって実のある活動であると思います。



この「最高の結果を出すコーチの9つのルール」は、かなり吉井さんの経験談が多く、とても参考になるシーンが多いように感じます。
経験を重ねるごとに深みを加えていく「コーチング」が、選手主体の指導法へと進化していったのですね。
人間的成長も相まって、一般社会でも適用できるものばかりでとても参考になりました。
『最高のコーチは、教えない』の感想・まとめ


人を育てるとは教えることにあらず。
自らの気づかせることが自信を持たせ自立を促す。
吉井さんの言いたいことは「自ら考える」ことの大切さなのだと思います。
「選手主体」、コーチはコツを教えるのではなく気づかせるのが仕事なのだということです。なんでも答えを教えていたらその選手の野球生命を短命なものにしてしまうということは、ある意味新鮮に感じました。
そして、短期目標だけでなく、長期にわたって活躍できる術を教える・・・このことは、現代社会には不可欠ですよね。何があっても動じない強靭なメンタルをつくるという面において共感しました。
そして、決して自分の型にはめない、選手に合った指導をそのつど変えるという、指導法の引き出しを増やす努力をおこたってはいけないといことも学んだ気がします。
ビジネスの世界でも十分に通用する考え方で、これはぜひたくさんの人に読んでいただきたいものです。ぜひご一読ください。
『最高のコーチは、教えない』の概要


本書の目次
『最高のコーチは、教えない』
はじめに
第1章 なぜ、コーチが「教えて」はいけないのか
第2章 コーチングの基本理論
第3章 コーチングを実践する
第4章 最高の結果を出すコーチの9つのルール
おわりに
著者の紹介
吉井理人(よしい・まさと)
1965年生まれ。和歌山県出身。
和歌山県立箕島高等学校卒業。
1984年、近鉄バファローズに入団し、翌1985年に一軍投手デビュー。
1988年には最優秀救援投手のタイトルを獲得。
1995年、ヤクルトスワローズに移籍、先発陣の一角として活躍し、チームの日本一に貢献。97年オフにFA権を行使して、メジャーリーグのニューヨーク・メッツに移籍。
1998年、日本人メジャーリーガーとして史上2人目の完投勝利を達成。
1999年には、日本人初のポストシーズン開幕投手を担った。
2000年はコロラド・ロッキーズ、01年からはモントリオール・エクスポズに在籍。
2003年、オリックス・ブルーウェーブに移籍し、日本球界に復帰。
2007年、現役引退。
2008年~2012年、北海道日本ハムファイターズの投手コーチに就き、2009年と2012年にリーグ優勝を果たす。
2015年、福岡ソフトバンクホークスの投手コーチに就任して日本一に、2016年は北海道日本ハムファイターズの投手コーチとして日本一に輝く。
また、2014年4月に筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に入学。
2016年3月、博士前期課程を修了し、修士(体育学)の学位を取得。現在も研究活動を続けている。
主な著書
吉井理人 コーチング論 教えないから若手が育つ/徳間書店 (2018/3/21)
投手論/徳間書店 (2017/7/7)


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